ワインディレクター田邉公一が注目、上映時間4時間のドキュメンタリー『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』の見どころとは?
ーーそれでは、映画の感想についてお伺いしていきたいと思います。今回の映画を見て、田邉さんが率直に感じられたご感想を教えてください。
かなりリアルにレストランの現場が写し出されていると思います。フレンチレストランで20代から30代まで勤務していた当時の緊張感や日々の業務のこと、苦楽をともにした仲間達、接客をしていた常連のゲストの方々のことが思い出されました。
ーートロワグロの店の裏側が、買い出しから食材の仕込み、試作、下拵えから調理まで余すことなく写されていました。どのシーンがいちばん印象的でしたでしたか?
いちばんを決めるのはなかなか難しいですが、レストランの営業シーンはかなりリアルで臨場感がありました。調理場での盛り付けのシーンや、実際の接客シーン、ランチでのゲストへワインをおすすめするシーンでは、かなり細かくヒアリングをしていて、それに対して即座にコメントを返している点などが素晴らしかったです。
ーー今回の映画では、さまざまなお料理が登場しましたが、田邉さんがいちばん食べてみたいと思ったのはどれでしたか?また、その時にはどんなワイン、ドリンクを合わせますか?
本当においしそうで、クリエイティブな料理の数々でした。プロヴァンス産の大きなホワイトアスパラガスは特に食べてみたいお料理です。 ビターアーモンドのソースにアーモンドとレモンピールを添えたこちらの料理は、同じプロヴァンス地方の白ワインで、ドメーヌ・オットのコート・ド・プロヴァンス ブラン・ド・ブラン クロ・ミレイユを合わせたいです。セミヨンとロール(ヴェルメンティーノ)で造られる豊潤でみずみずしいワインです。
ーーさて、シェフソムリエ兼取締役として、レストランの運営までもご経歴のある田邉さんにお聞きしたいのですが、レストランを経営するということでいちばん大変なことはなんでしょうか?
レストランでは、その料理やサービスのシーンだけが目に見える場面として現れますが、そこにいたるまでの準備がとても大変。料理は仕込みが大切ですが、それ以外にも本を読んだり食べに行ったり、自宅で練習をしてみたり、さまざまな努力が必要です。 サービスマンも良い接客ができるようになるまでにはワインや飲料、料理、語学等についての膨大な勉強を要します。さらには業者とのワイン選定の打ち合わせ、業務ミーティング、掃除......。レストランの営業時間はランチ・ディナーがあるお店では、それだけで一日の基本労働時間である8時間ほどに達します。しかし、8時間勤務というわけにはいかず、上記の業務をそれ以外の時間で行わなければなりません。そしてそれ以外に大量に勉強する時間とエネルギーが必要になります。 さらに経営側に立つと、会社を健全に運営して行くためのさまざまな視点をもち、決断、行動、リーダーシップを求められます。通常の映画やドラマであれば、表のシーンのみが取り上げられますが、本作はその裏側までほぼ全てが描写されている点が、すごいところだと思います。