伊調のパワハラ問題浮上の背景に何が?過去には不透明な五輪選考問題も
以後、日本代表の選考方法は不透明さを増すばかりだった。大会前に代表選考方法が決まらず、一部階級については「合宿で内容を見て決定」と大会終了後にアナウンスされるようになった。合宿に審判を招集して実施される参考試合で決定されたので、試合で決める体裁は保たれていた。しかし、当事者である選手本人が準備する時間の問題などを考えると、なぜ、選考対象の試合より前に知らされないのかに疑問が残った。 そして、2016年リオ五輪の代表選考では奇妙なことが起きた。2015年12月の全日本選手権は、五輪代表について「その年の世界選手権でメダル(出場枠)を獲得した場合、2015 年12 月天皇杯に出場した時点で内定する(計量のみは不可)」と2014年12月に発表されていた。それにあわせ、世界選手権を優勝した伊調馨は、58kg級にエントリーしたのだが、世界選手権の48kg級で優勝した登坂絵莉と、53kg級で優勝した吉田沙保里は、それぞれ五輪では、彼女らにとって減量の負担がかなり軽くなる53kg級と55kg級に出場した。 階級制のスポーツにとって、体重の違いは重要だ。減量の負担が小さくなる階級で出場することが、はたして五輪代表選考の条件を満たしているのかという疑問は残ったが、すでにアナウンスされていた代表選考方法に「同じ階級でなければならない」という文言はない。五輪の本番で出場する階級と同じ階級に出場するのは当たり前のことだと捉えていたこちらとしては、虚を突かれたとしかいいようのない出来事だった。 奇妙なプロセスではあったが、リオ五輪で日本の女子レスリングは金4、銀1という過去最高の成績をおさめた。しかも、伊調馨は五輪4連覇だ。この好成績が、代表選考のいびつさについて検討するチャンスを奪ったのも皮肉な結果といえる。勝てば官軍、好成績をおさめると、それまでのことは水に流して当然という雰囲気に日本中が覆われたからだ。 なぜ、このように代表選考方法が曖昧になっていったのか。様々な原因が考えられるが日本レスリング協会の意思決定プロセスそのものが曖昧模糊としていることが、大きな理由のひとつだろう。そして、何かを決定するときには、合議よりもトップダウン方式をとりたがる組織のあり方が根底の問題としてある。決定事項が告知される場合、そこには暗黙の了解がすでにあり、反対意見を無視して強行採決されるシャンシャン総会のような光景が繰り返されているのではないかという疑いまでもが自然と浮かぶ。 そのため記者会見などを通じて、経緯や理由をロジカルに説明することができない。 「我々はプロ。任せてください」「皆で話して決めました」など答えにならない回答しか返ってこない。