全米大ブレイクのトミー・リッチマン、ファレル&ティンバランドから受け継ぐ越境性とは?
トミー・リッチマン(Tommy Richman)の「MILLION DOLLAR BABY」は、この夏を代表する一曲だ。トラップを通過したエレクトロファンクのようなサウンドや多重録音コーラスが印象的なこの曲は、4月26日にリリースされBillboard Hot 100に2位で初登場。それまでチャート入りしたことのなかったアーティストとしては鮮烈な大ヒットとなった。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」 勢いに乗るトミー・リッチマンは、先日新たなシングル「DEVIL IS A LIE」をリリース。ファルセットを多用したヴォーカルやファンクの要素は「MILLION DOLLAR BABY」と同様だが、トラップ的な要素はなくまた異なる一面を覗かせていた。これは現行メインストリームど真ん中の音というよりは、2000年代にザ・ネプチューンズが取り組んでいたようなスタイルと近いものだ。
ノー・ジャンルなスタンスの中でファンクやR&Bを一つの軸に
「MILLION DOLLAR BABY」で突如大ブレイクを掴んだトミー・リッチマンだが、そのキャリアは急に始まったものではない。初リリースは2016年のシングル「Ballin’ Stalin」で、その後も精力的にシングルを発表。2022年にはEP『Paycheck』とアルバム『ALLIGATOR』、2023年にはEP「THE RUSH」をリリースしている。また、2023年にはR&Bシンガーのブレント・ファイヤズが立ち上げたレーベルのISOスプレマシーと契約しており、ブレント・ファイヤズのアルバム『Larger Than Life』収録の「Upsest」に客演も行っている。初リリースから数えればキャリア8年、積み上げてきたものがあるアーティストなのである。 「MILLION DOLLAR BABY」と最新シングル「DEVIL IS A LIE」はファンキーな路線だったが、これまでの作品で聴かせてきたスタイルはそれだけではない。初リリースの「Ballin’ Stalin」は暖かいホーンとタイトなドラムを使ったブーンバップだったし、曲によってはパンクなどの要素もある。ヴォーカル面でもR&Bシンガー的な歌い方だけではなく、ラップやロック文脈のシャウトも聴かせる多才なアーティストだ。こういったノー・ジャンルなスタンスは今の時代珍しいものではないが、そんな中で「MILLION DOLLAR BABY」で聴かせたようなファンクやR&Bの要素を一つの軸としているのがトミー・リッチマンの個性と言えるだろう。