全米大ブレイクのトミー・リッチマン、ファレル&ティンバランドから受け継ぐ越境性とは?
DMVの連帯を主導してきたブレント・ファイヤズ
リリカル・レモネードのインタビューでは、ファレル・ウィリアムスと並んでティンバランドの名前も挙げている。ティンバランドもアリーヤやジャスティン・ティンバーレイクの作品でR&B~ファンク名曲を多く生み出し、マグーと共にラップアルバムを出し、自身のソロ作ではワンリパブリックやフォール・アウト・ボーイと共にロック的なノリにも挑んでいた。「MILLION DOLLAR BABY」では「VA next(次はVA=ヴァージニアだ)」というラインが登場する。トミー・リッチマンの音楽はSoundCloudラップ世代らしい越境性を纏いつつも、地元のヴァージニアを背負っているのだ。 ヒップホップ/R&Bの分野において、ヴァージニアは地域として注目を集めたことはこれまでなかった地だ。しかし、先述したファレル・ウィリアムスやティンバランドのほか、トレイ・ソングスやミッシー・エリオットなどスーパースターはこれまでにも何人か生まれている。トミー・リッチマンはリリカル・レモネードのインタビューで、「ヴァージニアの音楽シーンについて思うことは、才能のある人たちはいっぱいいるんだけど、多くの人たちが門戸を閉ざしているように感じるということ。分断されていて、まとまっていないように感じる」と話している。 また、ヴァージニア(V)は、隣接する州のワシントンDC(D)とメリーランド(M)と合わせて「DMVエリア」と呼ばれている。それを踏まえると、メリーランド出身のブレント・ファイヤズがトミー・リッチマンをフックアップしたことはその大きな一歩だ。そして、振り返ってみるとブレント・ファイヤズは、これまで自身の作品にザ・ネプチューンズやティンバランド、ミッシー・エリオットとDMVの先人たちを迎えてきた。キャリアの転換点となったのもDC出身のゴールドリンクのシングル「Crew」への客演であり、DMVの連帯感を高めるような動きをずっと取ってきていた。だからこそ、DMVらしい音楽に取り組むトミー・リッチマンと契約したのだろう。 トミー・リッチマンが「MILLION DOLLAR BABY」でのブレイク後にリリースした注目のシングル「DEVIL IS A LIE」は、先述した通りザ・ネプチューンズ風のサウンドだ。本人の地元に関する発言やブレント・ファイヤズの動きを思うと、この路線はDMVの系譜への自覚から生まれたものだろう。彼らの成功がDMVのシーンを切り開くことに繋がるのか、トミー・リッチマン本人の今後と共に要注目だ。
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