全米大ブレイクのトミー・リッチマン、ファレル&ティンバランドから受け継ぐ越境性とは?
SoundCloudラップのシーンとヴァージニアの地域性
トラップ、ブーンバップ、R&B、パンク……トミー・リッチマンが挑んできたスタイルを並べてみると、いわゆる「SoundCloudラップ」と呼ばれているシーンで人気を集めるスタイルとある程度重なっていることに気付く。例えばSoundCloudラップを代表するラッパーの一人のXXXテンタシオンは、トラップの「Look At Me!」やブーンバップの「Riot」のような曲に挑みつつ、トラヴィス・バーカーとの共作もたびたび行っていた。歌とラップ、シャウトを自在に使うヴォーカルスタイルもトミー・リッチマンと共通するものだ。また、トミー・リッチマンの現時点での唯一のアルバム『ALLIGATOR0』収録の「NET WURTH」では、トリッピー・レッド「Miss the Rage」に代表されるSoundCloudラップ発のサブジャンル「レイジ」的なシンセを導入している。2000年生まれのトミー・リッチマンはソーフェイゴやイートといった現行SoundCloudラップシーンの中心人物たちと同世代であり、そのシーンからの影響も大いにあるのではないだろうか。「MILLION DOLLAR BABY」には、ケン・カーソンやリル・テッカなどを手掛けるプロデューサーのカヴィの名前もクレジットされており、人脈的にも共通している。 しかし、トミー・リッチマンの音楽はこういったSoundCloudラップ的な要素だけではなく、先述した通りR&Bやファンクの要素がキーとなっている。そのルーツを考えるのに重要なのが、トミー・リッチマンの出身地のヴァージニアのシーンだ。 ヴァージニアは、トミー・リッチマンと同じく「R&Bやファンクを軸にジャンルを横断する」スタイルの先駆者を多く輩出していた。例えばファレル・ウィリアムスは、ヒップホップやR&B作品をプロデュースしながらN.E.R.D.でロック的な路線にも挑んでいた人物だ。こういったクロスオーバー志向を持ちつつも、自身の作品では代表曲「Happy」などR&B寄りのスタイルが軸となっており、ダフト・パンクに客演した「Get Lucky」のようなファンクのヒット曲も持っている。ラップと歌を両方こなしファルセットを巧みに使うボーカルスタイルもトミー・リッチマンと共通するもので、実際にトミー・リッチマンはリリカル・レモネードなどのインタビューでたびたびその名前を出している。その大きな影響源の一つであることは間違いないだろう。