苦境・日産とホンダの統合にワクワクしない理由――「日の丸液晶」ジャパンディスプレイの二の舞ではないのか
■ 2030年に統合の成果? 日産の救世主、カルロス・ゴーン会長(当時)が逮捕された2018年。その直前には仏マクロン政権の圧力を受け、ルノーによる日産の完全子会社化が画策されていた。そうはさせじとゴーン氏を追い落とし、日産を日本人の手に取り戻した。 しかしゴーン氏の後を引き継いだ日本人経営者たちには、日産を本気で変える意思も力もなかった。急速にEVシフトが進む中国では何の対策も打たず販売シェアを落ちるに任せ、北米ではデタラメな販売報奨金を積んでその場限りのシェア維持に走った。「自分の任期だけはもたせよう」というサラリーマン的発想の極みであり、倒産寸前まで行った「ゴーン以前の日産」に逆戻りしたかのようだ。 そんな日産でも、経産省は守りたいらしい。23日の記者会見で内田社長は全面的に否定したが、今回も海外では台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が日産買収に意欲を見せていると報じられた。 「経済安全保障」を標榜する経産省の中に、液晶パネルの時と同じく「日本の基幹産業を守れ」という声があるのは間違いない。 資本主義国家において、国が個別企業を救済するのは御法度だが、経産省には「業界再編に際しては公的資金を投入しても構わない」という謎のルールがある。3社統合が実現すれば、何千億円、何兆円という規模の公的資金を堂々と注入できる。 ホンダは経産省に首根っこを掴まれたのか、国のカネに目が眩んだのか。 ダイムラー・クライスラーもフォード・マツダも瓦解した。繰り返すが、2022年に亡くなった吉野氏が喝破したように「二人三脚」ではまともに走れない。三菱自動車まで巻き込んだ「三人四脚」ならなおさらだ。経産省が後ろから操る「三人四脚」など、悪夢に等しい。 「2030年の断面で」と三部社長は言う。 しかしこの激変の時代に5年先のことなど、誰にわかると言うのか。 テレビが「家電の王様」の座から滑り落ち、誰もがスマホで動画を見るようになるまで5年もかからなかった。その5年で日本の電機産業は液晶パネルだけでなく、半導体もスマホもパソコンもテレビも失った。思い出してほしい。再編の絵を描いたのは誰だったか。 三部社長が「統合の成果が出る」と言う2030年。自動車産業を変化の坩堝(るつぼ)に叩き込んだ張本人、米テスラのイーロン・マスクCEOは、火星に降り立っていても不思議はない。
大西 康之