苦境・日産とホンダの統合にワクワクしない理由――「日の丸液晶」ジャパンディスプレイの二の舞ではないのか
(大西康之:ジャーナリスト) 電機敗戦の次は自動車敗戦? 株式市場関係者や業界で長年、言われてきたことが、ついに現実になろうとしている。 【写真】この後どうなった?日産・ホンダ・三菱自の3社統合と重なるジャパンディスプレイの誕生。左から産業革新機構の能見公一社長、東芝の佐々木則夫社長、日立製作所の中西宏明社長、ソニーの吉岡浩副社長 12月23日、ホンダと日産自動車は「経営統合に向けた協議に入った」と正式に発表した。まだ確定ではないが、25年6月に最終契約を結んで共同持ち株会社を設立し、26年8月にはその会社を東証プライムに上場するという。ホンダ、日産のブランドは持ち株会社の傘下となり、三菱自動車もそこに加わることを検討する。 今回の3社統合は、日本のコンシューマー・エレクトロニクスが終焉を迎えた時の姿と見事に重なる。 ■ 経産省主導で生まれた日の丸液晶メーカーの「その後」 2011年8月31日、東芝、日立製作所、ソニーの3社は「中小型液晶パネル事業の統合会社を設立する」と発表した。官製ファンドの産業革新機構が2000億円の公的資金を投入し、全面的にバックアップした。 「中小型液晶市場は拡大しており、日本企業にとって千載一遇のチャンス」と革新機構の能見公一社長(当時)が同機構の実質的な「親会社」である経済産業省の意見を代弁し、日立の中西宏明社長(同)が「日本の産業は国内競争で体力を消耗してきた。これからは力を合わせて盛り上げていきたい」と呼応した。「日の丸液晶パネルメーカー」ジャパンディスプレイの誕生である。 「3社の中小型液晶市場での世界シェアは10年時点でそれぞれ6~9%程度。単純合計で22%となり、15%のシャープを抜いて首位となる」 当時の日本経済新聞は3社の事業統合をこう祝福した。 あれから14年――。
ジャパンディスプレイは2025年3月期も最終赤字の見通しだ。赤字は実に11年連続。2000億円の公的資金はゾンビの延命(「生ける死者」のゾンビが生きているか死んでいるかは意見の分かれるところだ)に虚しく費やされた。 原因は明白だ。 赤字事業を統合しておきながら、工場閉鎖一つできなかった。生産能力が余剰であることは誰の目にも明らかだったが、3社とも「ウチの工場を潰してもらっては困る」と頑張り、決断を下す者がいなかった。 大口顧客のアップルに振り回された部分はあるが、烏合の衆と化したジャパンディスプレイは、液晶から有機ELへのシフトもタイミングが遅れ、次々に顧客を失った。 あれから14年。同じことが自動車産業で始まろうとしている。 ■ スケールメリットに意義はあるか 23日の記者会見で日産の内田誠社長はこう言った。 「経営統合が実現した場合はグローバルの自動車メーカーの中ではトップクラスの規模感になる。新たなプレーヤーが次々と登場し、市場の勢力図を次々と塗り替えている中、スケールメリットはこれまで以上に大きな武器となる」 ジャパンディスプレイが3社の液晶パネル事業を統合したのもスケールメリットを求めたからだ。しかし薄型テレビからスマホへ、というパラダイムシフトにおいて、液晶パネルの生産規模は何の意味も持たなかった。むしろ体が大きくなり、船頭が増えたことにより、市場の変化に追随する敏捷性を失った。 自動運転、電気自動車(EV)へのパラダイムシフトが進む中、ガソリン車を中心にした「販売台数世界3位」の称号など、何の意味も持たない。減損処理する資産が多いだけの話だ。三菱自動車も加わった3社統合が実現するなら、それは「自動車版ジャパンディスプレイ」の誕生になる。3社で責任をなすりつけあっているうちに市場はみるみる変化し、置いてけぼりを喰らう。