ロシア軍、クルスク州に砲200門配備しながら機能せず 情報・連携不足で奇襲許す
8月6日、ロシア西部クルスク州の国境沿いの防御線を突破したウクライナ軍の強力な機械化部隊は、ロシア側の塹壕などの防御陣地を迂回しながら電光石火の進撃を続け、またたく間におよそ1000平方kmの土地を占領した。 ウクライナがロシアに逆侵攻を仕掛けた理由は単純ではない。ウクライナがクルスク州の一部を獲得したことで、この戦争の趨勢は決定的ではないものの変わった。また、ロシア軍はウクライナ東部や南部の戦線から精鋭部隊の一部の転用を余儀なくされた可能性がある(編集注:ウクライナ軍のシルスキー総司令官は8月末、ロシア軍はクルスク方面にほかの方面からおよそ3万人の兵力を移したと述べ、ウクライナのゼレンスキー大統領は9月中旬、ロシア軍におよそ4万人の兵力をクルスク方面に移動させることに成功したと主張したが、どこに配置されていた部隊なのかなど詳細は不明)。 クルスク州の一角はさらに、ウクライナが将来ロシアとの和平交渉に臨むことになった場合に貴重な取引カードになるかもしれない。 他方、ウクライナ軍がなぜこれほど広い土地をこれほど短期間に制圧できたのかという謎は、だんだん解けつつある。結論から言えば、クルスク州のロシア軍の防御が崩れた原因は必ずしも兵力不足ではなかった。それは情報と連携の不足だった。 クルスク州での戦闘中に、ウクライナ兵が手に入れたとされるロシア側の地図は、そうした事情を知る手がかりになる。それによると、ロシア軍の守備隊は越境攻撃を受ける前日の8月5日、一帯の国境沿いに多連装ロケット砲13門、榴弾砲・カノン砲・対戦車砲計98門、迫撃砲71門を配備していた。 地図を閲覧したウクライナ軍のドローン(無人機)操縦士「クリークスフォルシャー」(Kriegsforscher、@OSINTua)は「相当な数だ」とコメントしている。「ロシア側に火力はあったということだ」
現地のロシア軍部隊は情報も不足していたもよう
ウクライナ軍部隊がクルスク州に出てきたとき、これほど多くの砲が適切に使用されていれば、ロシア側にとって決定的なものになっていたかもしれない。クリークスフォルシャーは「うまく連携すれば、どのような突破もほぼ防ぐことができる」と説明している。 砲が適切に使用されなかったのは、ロシア側の情報不足と、ウクライナ軍がクルスク州に攻め込んでくることはないという思い込みが主な原因だろう。ロシアの退役陸軍中将で下院議員のアンドレイ・グルリョフは「遺憾なことだが、国境を守る部隊集団は独自の情報アセットを持っていなかった」とソーシャルメディアに書き込んでいる。 したがって、ロシア軍のロケットランチャーや平射砲、曲射砲は、侵攻された場合に敵が通る可能性が最も高いルートをいつでも砲撃できるように待ち構えてはいなかった。想定外の侵攻を受けたときに、国境を越えてきたウクライナ軍部隊に狙いをつけることがなかったのは言うまでもない。ウクライナ軍部隊の迅速な行動に、準備不足のロシア軍砲兵の対応は後手に回った。 ウクライナ側はさらにジャミング(電波妨害)によってロシア側のドローンの飛行などを妨害しつつ、自軍のドローンでクルスクの空を埋めたほか、米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)などによる砲撃でも侵攻部隊を支援した。 消耗する塹壕戦で主に特徴づけられるこの戦争では珍しく、クルスク州ではウクライナ軍が少なくとも当初は機動性で優位に立った。米誌ニューラインズ・マガジンの編集者マイケル・ワイスとアナリストのジェームズ・ラシュトンは、ウクライナ軍は「クルスク攻勢の劈頭にロシア領内深くへの侵入を果たした」と、侵攻から間もない時期に同誌の記事に書いている。 「多くの場合、彼ら(ウクライナ軍部隊)はロシア側の塹壕線や補強された戦闘陣地側との交戦に時間を浪費せず、迂回して進軍した。妨害のない陸路を抜けていくことで、ウクライナ軍は数時間で数キロのペースで前進できた」と続けている。