”ロシア政府”に見つかれば終わり...電波の届かない国境付近で繰り広げられた生死を賭けた「緊迫の脱国劇」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第49回 『恐ろしい“ロシア政府”からの逃亡を図った親子を“絶望”に陥れた「過酷すぎる道のり」』より続く
「あの星に向かって歩くんだ」
アントンが携帯を取り出し、電波を受信しようとした。電波はなかった。 「さあ行こう。この低地から出なきゃ」アントンは言った。 わたしたちは立ち上がり、何度も穴に落ちながら、アントンを追いかけて耕された畑を歩いた。500メートルほど進んだ時、アントンがうれしそうにつぶやいた。 「電波が届いた!」 アントンはスーツケースを置いて携帯電話をかけた。 「どこだい?灯りをつけてくれ。見えないよ」アントンは携帯に向かって言った。 森の中は依然として暗闇だった。 「一番明るい、あの黄色い星に向かって歩くんだ。後ろには大熊座の尻尾がある」 アントンは顔を空に向けた。 「右には2台のトラクターの灯り、左はどうやらもう一台トラクターかクルマだな」 「もうこっちへ向かってる」アントンが小声で言った。
【関連記事】
- 【つづきを読む】泥の中を走りボロボロの車を乗り継ぎ「命がけの逃亡」...ロシア政府に追われたジャーナリストの思わぬ結末とは...!?
- 【前回の記事を読む】恐ろしい“ロシア政府”からの逃亡を図った親子を“絶望”に陥れた「過酷すぎる道のり」
- 【はじめから読む】ウクライナ戦争を伝えるロシア政府系のニュースで「あなたたちは騙されている」と乱入した女性…その時、一体何が起きていたのか「本人が直接告白」
- 「消えたビデオ配信」...「完全に無視された」女性記者が裁判で目の当たりにしたロシア政府の《深すぎる闇》
- 「野次馬」の撮った動画が“決定的証拠”に...ロシア反体制指導者・ナワリヌイが厳重警備の空港で買った“紅茶”に入っていたまさかのもの