TPP離脱宣言 トランプはアメリカを再び「偉大な国」にできるか
「二国間交渉」は日本にはタフなものに?
トランプは、NAFTA(北米自由貿易協定)でメキシコがアメリカの富を奪ったのと同様に、TPPでは日本を含むアジア太平洋の国々がアメリカの富を奪うと主張しています。先ほど指摘したように、トランプはTPPを廃止して公平な二国間協定の実現を目指すと主張しています。しかし、オバマ政権下で結ばれたTPPは実質的には“二国間協定の束”と言ってもよい特徴も持っているので、トランプの主張は、TPPに含まれていた二国間交渉をアメリカにとって都合の良いものに変えるという主張であって、日本を含むTPP締結国にとっては都合が悪いものだと言わざるを得ません。 日本との交渉でも、日本産の自動車に高関税をかけることが求められたり、アメリカ産の農作物の購入が要求されたりすると予想されます。多国間交渉の場合にはオーストラリアとの関係で防御的になっていた農業関係ロビー団体は、日米の二国間交渉の際には強い態度で交渉に臨むものと想定されます。その交渉はタフなものとなるでしょう。 TPPは2016年2月4日に参加12国で署名式が行われましたが、それが発効するのは、署名から2年以内であれば、全12か国が国内手続きを完了させた60日後、署名2年後以降は、GDP総額の85%以上を占める6か国以上が国内手続きを終えた60日後と定められています。これは、アメリカが入らなければTPPは発効しないことを意味しています。共和党主流派とトランプの関係は決して良好とは言えませんが、トランプがTPPからの離脱を明言しているとともに、共和党内のティーパーティ派議員もTPPに批判的です。オバマ政権も、任期中のTPP実現を断念すると宣言しました。TPP発効は困難になったといえるでしょう。
アジア太平洋には米抜きの「RCEP」構想も
TPPをめぐる動きは、アジア太平洋地域の国際秩序をどの国が主導して作り上げるかという議論とも関係しています。 この地域ではTPP以外にも「東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)」という構想が出されています。RCEPとは、日本が提唱してきた東アジア包括的経済連携(CEPEA)と、中国が提唱してきた東アジア自由貿易圏(EAFTA)という二つの地域経済協定案をふまえて、東南アジア諸国連合(ASEAN)が提示している構想で、日中韓印豪ニュージーランドの6か国が、ASEANと持つFTAを束ねようとするものです。この構想には、アメリカは参加国として想定されていないところが大きな特徴と言えます。 アメリカ国内では、RCEPはアメリカを排除した、中国主導の秩序構想だという議論もなされています。RCEPを実現させるよりは、アメリカ主導でTPPを実現した方がよいという議論は、共和党主流派の中でも根強く持たれていました(なお中国はTPPに入っていません)。しかし、連邦議会選挙で勝利するためには内政を重視する必要があり、またトランプがTPP反対を強調していたことから、TPP実現の可能性を探ろうとする共和党主流派の声はかき消されてしまったところがあります。