新型コロナ対策 米国の「国家非常事態宣言」と歴史的な渡航中止勧告の関係は
さらに重要なのは議会での関連立法
米国では3月20日午前10時(東部時間)時点で感染者数が1万4250人を超え、205人が死亡。全米50州の全てで感染者が確認され、一気に感染が広がっている。初期段階の政権の取り組みの遅れに対してすでに批判も出ている。連日のようにトランプ大統領が新しい対応を発表している。 事態が深刻化する中、感染者の検査だけでなく、移動・隔離に必要な設備や物資の調達などを考えると、さらに広範なさまざまな法整備も不可欠となる。また、保険適用の特別措置で無保険者も検査はできても、その保険で治療までの費用がしっかりカバーされていない。国民皆保険の国ではない米国では無保険の人たちが感染を広げてしまう恐れがある。そこで重要なのが議会と広範に協力し、国家非常事態宣言に続く、有効な法律を作ってもらうことだ。予算措置はやはり議会が動かないと難しいためだ。 その一環として、たとえばトランプ大統領は給与税減税などを打ち出したが、社会保障の財源となるため民主党は受け入れられそうにない。そのため、民主党も同意しやすいものに切り替えて、国民に一律の給付金を支払うベーシックインカム的な支援や、航空産業や危機的なセクターの救済などもトランプ政権は打ち出している。 たとえ非常事態であっても、大統領は議会を説得しないと効果的な政策を打ち出せない。上述の「壁」建設が思うように進んでいないのもどうしても民主党との対立案件となってしまっているためだ。非常事態宣言にも分断の時代が影を残しているが、この分断をどのようにして超えるかが、感染対策とともに、トランプ氏が直面する大きな課題だろう。 -------------------------------------------- ■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)など。