新型コロナ対策 米国の「国家非常事態宣言」と歴史的な渡航中止勧告の関係は
新型コロナウイルスは急速に世界で感染を広げています。日本で「緊急事態宣言」を可能とする改正特別措置法が成立した同じ日に、アメリカではトランプ大統領が「国家非常事態宣言」を出しました。首相が緊急事態宣言した場合に、都道府県知事が住民の外出自粛を要請したり、学校や映画館などの施設の使用制限を要請・指示したりできる日本の制度に比べ、アメリカの国家非常事態宣言で大統領はどんなことが可能になるのでしょうか。歴史的な渡航中止勧告とはどういう関係性になるのでしょうか。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に解説してもらいました。 【図解】強くて実は脆いアメリカ大統領 「弾劾」に必要なプロセスとは?
メキシコ国境の「壁」建設問題でも宣言
トランプ大統領は3月13日、新型コロナウイルスの感染拡大に対処するため国家非常事態を宣言した。アメリカの国家非常事態宣言で、大統領は何ができるのか、まとめてみたい。
新型コロナウイルス対策でトランプ大統領が出した国家非常事態宣言(国家緊急事態宣言、national emergency declaration)とは、大規模災害やテロなどの緊急事態時において、大統領の権限を強化して迅速な対応を目的とする大統領令である。利用する根拠法は複数あり、対応する状況に応じて選択する。 大統領の非常事態宣言を行う場合について、議会はこれまで100以上のさまざまな法律を制定している。その最も代表的なものが1976年成立の国家非常事態法(National Emergencies Act)だ。簡単にいえば、非常事態への対応のために、大統領の権限でさまざまな予算を柔軟に優先的に割り当てることができるという内容などが主に同法に記されている。アメリカの大統領制は独裁をさせない政治システムなので、非常事態宣言時においても民主党と共和党でどうしても意見が分かれてしまうような対立案件以外は議会の協力を得るのがあくまで基本だ。 この法律の前にも同様の非常事態宣言があり、アメリカの場合、1917年から2020年3月現在、計60もの国家非常事態宣言が出されている。そのうち、30は現在も有効である。1979年のイラン革命の際のイラン政府の米国内資産凍結や1995年のコロンビアの麻薬カルテルのマネーロンダリング摘発など、事態の改善が進まないため、非常事態宣言が残っているタイプのものがほとんどである。 トランプ大統領が昨年2月、メキシコ国境に不法移民対策の「壁」建設に国防予算を転用するために宣言したのは記憶に新しいが、建設が思ったように進まない中、なかなか解除できない。