高度範囲はドローン以上…「無人航空機」事業化へ、新明和工業の危機感
新明和工業は電動やエンジンで飛ぶ無人航空機の事業化に挑む。無人飛行体では近年、垂直プロペラの飛行ロボット(ドローン)が急速に市場を席巻した。しかし、同社は有人機より高く飛行し重量物も積める無人機などで、新たな市場の創出を目指す。試験飛行を重ね用途も探索し、5年後に実用化の域へ達したい考えだ。 【写真】新明和工業が開発した、飛行する固定翼型無人機「XU-S」 新明和工業が無人航空機のプロジェクトを始めたのは、2015年にさかのぼる。同社は海上自衛隊の救難飛行艇メーカーだが、改良が中心となり主な技術開発を終えた時期だった。航空機造りの技能を若手に伝承するには国頼みでなく、民間の新型機も絶えず開発する必要がある。こうした危機感から着目したのが、無人航空機だった。航空機事業部の小松聡技術部副部長は「新型機を経験していない若手が増えてきたので、研究を始めようとなった。3年間は、新明和ならばこういう航空機だよねと議論し、実証モデルを製作した」と振り返る。 電動プロペラ・双発の無人航空機として初の実証実験をしたのは19年。自治体の協力を得て新潟市で高度100メートル・1時間超の自律飛行を達成した。以降、大気汚染観測や電波の伝搬特性試験、海洋ゴミ空撮調査などを目的に自治体・大学や企業と実証実験・飛行を実施。水中探査できる無人飛行艇の初飛行も22年に成功した。いずれも時速は数百キロメートル。宮内空野技術部UAV開発課長は「研究を続けるには社会の要望を聞き、資金協力も得る仕組みが必要。開発コストや労力が見合うには、万人が使う自動車のようなニーズがないと難しいと痛感した」と説明する。 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から、他社と共同で採択されたエンジン機の計画もある。最高高度50キロメートルで成層圏に及び、積載可能量数十キロ。カメラや通信、光学、赤外線など多くの計測機器を積み観測範囲数百キロを想定する。一般に高度数百メートル、観測範囲数十キロメートルのドローンに比べ、明確に差別化できる。「気象や災害、海洋を広く高精度に観測したり、上空から中継し大規模な通信障害を復旧したりする用途で要望がある」(宮内課長)。人工衛星の一部役割を低コストと高度な観測分解能で補完する潜在需要を見込む。 航空機メーカーとしては空気力学や形状・構造、軽量化、自律・遠隔による飛行制御などで技術力を発揮する。自動車並みの小型エンジンに複数の過給器を設け、希薄な大気でも推進力を強める。3次元(3D)プリンターやシミュレーション(模擬実験)を駆使し、過給器や冷却の最適配置を設計する。 無人航空機では活用を検討する事業者、協業・外注先を合わせ官民約20社・組織と連携する。 宮内課長は「海外は軍事用を含め日本よりはるかに進み、民間も法令が整備され活用機運が高い。日本は10年出遅れ、海外製を売りつけられるだけだ」と危機感を示す。官民の協力をリードし「メード・イン・ジャパン」の先陣を切る。