IBM「AIによる人事評価」低評価や疑義には情報開示へ 労組側と和解
調査の中で、一部開示された40種類のデータは、「市場におけるスキルの多寡」「主たる担当業務の専門性」「IBMにおけるスキルの必要性」など。これらを「スキル」「基本給の競争力」「パフォーマンスとキャリアの可能性」の4つの要因ごとに評価した上で、具体的な給与提案を、パーセントで示す。 これに対して、労組側が挙げたAIによる不利益の可能性は次のようなものだ。 (1)プライバシーの侵害 個人の業績や職務遂行能力以外の情報の収集や利用は、労働者のプライバシーを侵害する懸念がある。 (2)公平性・差別の問題 会社の中で、優位性が高い立場にいる人に親和的な言動をとる人が、高く評価され、逆の人は低く評価される懸念がある。AIは正義や倫理を持たないので、差別を認識して是正することができない。 (3)ブラックボックス化 何が正しいかAIは判断できないし、判断に至った過程を説明することができない。低評価を受けた従業員はどのような理由で低評価になったのか分からないままでは、労働者が成長しようとする機会が失われる。 (4)自動化バイアス(コンピューターによる自動化された判断を過信してしまう傾向) ある組合員は、上司から「ワトソンが昇給させろと言うから、今回(賃金を)上げといたよ」と説明を受けたことがあった。日本IBMはワトソンは人事評価を「サポート」するツールと位置付けるが、自動化バイアスが働き、マネージャーはAIに逆らえない可能性が高い。
●疑義が生じた場合は評価結果の中身を出す
IBMとの和解のポイントは(1)給与調整にあたりAIが考慮した40項目全てを組合に説明する。(2)給与調整で、減額や昇給ゼロ、低評価など疑義が生じたときは、AIの提案内容を出し、内容を誠実かつ具体的に説明する。 和解の意義について、労組側代理人の穂積匡史弁護士はこう評価する。 「これまではどういった項目を評価材料にしているかすらわかりませんでした。AIを賃金査定に使う是非を考えるスタートに立ったと思います。是なのか、非なのか、ここから話し合うときにきています」 「社会のさまざまな領域でAIの利用が進む中で、賃金査定にあたってAIの評価項目や提案内容を明らかにするという透明性を確保できました。労使の合意ができたことは、非常に意義が大きいです」 同じく労組側代理人の水口洋介弁護士は「IBMという世界的なAIを開発する企業と、AIによる評価をどう人事評価に活用するかを、労組に開示しなければならないと合意したのが意義のあること」と評価する。