衛視投入や開会ベル、国会議長の職権は 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
採決をめぐって与野党で攻防が続いていた安保関連法案は17日午後、参議院特別委員会で可決され、舞台は本会議に移りました。野党5党は、山崎正昭参院議長に同法案の採決無効を申し入れています。山崎議長は16日夜の特別委の締めくくり質疑をめぐる対立に際し、女性衛視らを出動させて野党議員の排除を命じています。本会議は議長が開会のベルを鳴らさないと開かれませんが、国会の議長はさまざまな職権を持っています。 【写真】安保法案で野党が批判する「強行採決」とは? どこに問題点があるのか そこで、この議長の権限とはどのようなものか?について、これまでの開会をめぐる歴史も含めて振り返ってみます。
首相よりもえらい?
国会の議長とは衆議院議長と参議院議長を指します。日本は三権分立を採っていて両議長は立法府(国会)の長です。ちなみに行政府トップが内閣総理大臣(首相)で司法府トップが最高裁判所長官となります。この4人が「三権の長」と呼ばれるのです。 ではその中で最も偉いのは誰か。憲法41条に「国会は、国権の最高機関」とあるので衆参両院議長となるようです。国会の席も中央左のひな壇が首相席で真正面の一段高い場所に議長は座っています。今回の安保法案のように内閣提出法案の場合、首相をはじめとする内閣は国会に審議と成立をお願いする立場なので一段低いところで構えています。 両院の議長は投票で決められるものの慣例として第一会派(政党と必ずしも一致しない)から議長を、第二会派から副議長を選出します。任期は衆議院議長の場合、議員の任期と同じ。参議院議長は3年に1回行われる半数の改選までというのが慣例となっています。
議院の秩序保持や議事進行
国会法19条「各議院の議長は、その議院の秩序を保持し、議事を整理し、議院の事務を監督し、議院を代表する」が代表的な決まりです。 国会の召集は天皇の国事行為で「内閣の助言と承認により」行われるので事実上、首相の権限です。衆議院議長は参議院議長とも話し合って開会式を主宰します。場所は参議院本会議場。旧帝国議会で存在した貴族院に玉座があり、天皇をお迎えしての式典なので、貴族院の議場を引き継いだ参議院で開かれます。なお開会式は召集日に行わなくても構いません。 何といっても議長の役割として重要なのは公正な議事進行です。国会には法律や規則に加えて多くの慣例があるので、それらを踏まえないと混乱を生じます。したがって議長は当選回数を重ねて事情にくわしいベテラン議員が選ばれるのが常です。公正さを担保するため所属会派から離脱して無所属になるのが習わしです。何ら障害が生じないままスムーズに閉会まで進めるのが何より重要です。一方、大混乱に陥ったら議長は秩序保持のため国会内の警備などを担う職員である衛視を入れたり、あまりに騒がしいと鈴を鳴らしたりします。いったん鳴ったら出席議員は全員黙らなければなりません。 また議長は採決に加わらないものの可否同数の場合に限ってどちらかに決する権限もあります。 揉めに揉めて収まりがつきそうもないと判断したら、議長が自らあっせん案を示すなどして双方の調停に動く場合もあります。議長あっせんに法的根拠はないものの三権の長が自ら動いたという事実は重く、それでまとまる場合もあります。 2008年1月、ガソリン税について与野党が対立しました。1974年から税率が本来の2倍となっていたガソリン税の暫定税率の期限が3月31日に切れるのを見越して、参議院で多数を占めていた民主党など野党が「(ガソリン税などでまかなう)道路財源は税金のムダ遣い」と失効に追い込もうとし、与党は約2か月引き延ばす「つなぎ法案」で対抗します。「つなぎ法案」は衆議院の委員会で可決。本会議でも可決は確実でしたが、野党優位の参議院での混乱は確実。そこで30日、河野洋平衆議院議長と江田五月参議院議長による「年度内に一定の結論を得るものとする」とのあっせん案を受け入れました。与党は失効回避できると、野党は「つなぎ法案」を葬って果実を得たとそれぞれ判断したのです。衆議院が与党、参議院が野党多数の「ねじれ国会」ならではの光景でした。