五輪出場拒否を乗り越え、日本製義足で完全復活目指す鬼才のランナーと日本人エンジニアの夢【神戸世界パラ陸上】
遠藤さんの夢は、ウサイン・ボルトが2009年にベルリンで行われた世界選手権で樹立した100メートル9秒58の世界記録を、自ら製作した義足を装着した選手が破ること。 「私自身は、健常者の陸上と義足を使用したパラ陸上は別の種目だと思っています。オリンピックでも陸上競技と自転車競技があるように、世の中には義足を使った競技があるんだということです。ただ、義足の選手が健常者の記録を超える以前の問題として、そもそも競技人口が少ない。世界には、もっと有望なパラ陸上の選手がたくさんいるはずで、そういった国に義足を提供していきたい」 遠藤さんは今、競技用義足が普及していない国に積極的に出かけている。ラオス、インド、フィリピン、ブータン、今年にはアフリカのシエラレオネにも出かけた。今大会でも、タイの15歳の新生、ファラティプ・カムタも、遠藤さんが義足製作のサポートをしている選手のうちの一人だ。カムタは男子100メートル(T63=大腿義足使用)で12秒77で7位に入った。今大会で自己ベストを0秒24更新し、その若さからも今後の成長が楽しみな選手だ。遠藤さんは、こう話す。
「競技用義足の技術が発展していない発展途上国では、有望な選手がいても練習すらできない。それを、安価で高性能の義足が製造できるようになれば、競技人口がさらに増えるのは確実です。豊かな国の障害者だけがパラリンピックでメダルを取るのではなく、他の国の選手も良い成績を収めるようになれば、パラスポーツに大きな変化が訪れます。カムタには、健常者の元陸上競技選手がコーチについているので、記録はさらに伸びると思いますよ」 パラスポーツでは障害の重さによって不公平が出ないように、細かくクラス分けされている。ただ、同じクラスになっても障害の程度はさまざまで、完全に平等にすることは不可能に近く、「平等にした後の不平等」はパラスポーツの永遠のテーマだ。だからこそ、アスリートたちの障害の個性に適応した道具の開発が重要で、パフォーマンスの向上にも直結する。 義足を6インチ短くしたリーパーは、走り方を学び直し、フォームを変更し、新しいやり方でトレーニングを重ねている。義足も、彼の変化に合わせて今後も変化していくことになるだろう。リーパーは日本製義足で新しい挑戦をしていることについて「ケンは本当に良い仕事をしてくれているよ」と笑顔で話した。34歳の鬼才のアスリートは、パラリンピックの舞台で再び輝くための準備を着々と進めている。 取材・文:西岡千史