五輪出場拒否を乗り越え、日本製義足で完全復活目指す鬼才のランナーと日本人エンジニアの夢【神戸世界パラ陸上】
問題は、どのメーカの義足を使うかだった。パラ陸上の競技用義足は、ほとんどの選手がアイスランドのオズール社とドイツのオットーボック社の製品を使用している。ところが、リーパーが選んだのは、日本の義足開発ベンチャー「サイボーグ」だった。同社の遠藤謙代表は言う。 「私たちの会社は資金が少ないので、アスリートのスポンサーになれるわけではありません。その代わり、義足ユーザーとは常に一緒に新しい製品を開発するスタンスです。そのことを話すと、多くのアスリートは離れていきますが、リーパーは『一緒にやろう』と言ってくれました」 遠藤さんは、大学を卒業した後に米国のマサチューセッツ工科大(MIT)に留学し、義足の研究と開発に没頭した。2014年にサイボーグ社を立ち上げると、2022年にサイボーグの義足で米国の選手が10秒53のタイムで世界記録を更新。後にドーピング検査で記録は取り消しになったものの、サイボーグの名は義足アスリートの間で広く知られるようになった。 ただ、サイボーグが目指すのは、オズールやオットーボックのような有名義足メーカーになることではないという。 「私は昔から、当事者やそれを支援する人たちと一緒にチームを組んで、みんなで解決法を探すやり方が好きなんです。MITのエリック・フォン・ヒッペル教授は、『最も課題を抱えているユーザーは最も解決法を知っているが、それを実現するための手段がわからない。そこにいろんな人が集まって製品を開発することで、イノベーションが起きる』と言っています。私たちはユーザーの顔の見える範囲で製品を作って、そこから少しずつ広がっていけばいいなと思っているんです」(遠藤さん) 義足技術の発展とともに、パラ陸上の記録は健常者の記録に近づいている。一方、別の問題も起きているという。 「以前に比べて義足の製品のバリエーションが増えましたが、選択肢はまだ少ない。良い記録が出ると、アスリートはその選手と同じ義足を使いたがるのですが、体格も性別も違うのに、それが最適なものであるとは限らないんです。特に、女性は欧米のトップアスリートに比べて筋力が劣るので、別のメカニズムで走ったり、跳んだりしているはずで、それに合った義足はあるはずです。実は選手自身も『少し物足りない』と感じていても、具体的に何かはわからない。私たちは、それを一緒に探して、より良い義足を製作するためのサポートをしたいと考えています」(同)