箱根駅伝Stories/1年越しのデビューへ、早大・山口智規「他大学からアドバンテージを取れるような存在に」
新春の風物詩・箱根駅伝の100回大会に挑む出場全23校の選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。それぞれが歩んできた1年間の足跡をたどった。 第100回箱根駅伝・早大のエントリー選手16名をチェック!
大迫傑が持っていた大学記録を更新
11月19日、上尾シティハーフマラソンのスタート前、早大の山口智規(2年)はいつも以上にリラックスしているように見えた。 「今日は練習の一環なので、3分ペースで行こうと思います」 号砲が鳴る直前にはこんなことを話していた。 その言葉に反して、山口は日本人トップで競技場に戻ってきた。しかも、序盤に大きなリードを奪った山梨学大の留学生、ブライアン・キピエゴ(1年)に最後は9秒差にまで迫った。 記録は1時間1分16秒。自己ベストを大きく更新したばかりか、東京五輪男子マラソン6位の大迫傑(現・Nike)が13年前の上尾ハーフで打ち立てた早大記録(1時間1分47秒)を31秒短縮した。 「“1年生の大迫さん”には負けられない。あこがれの先輩なので、目指していく上で絶対に超えなきゃいけない記録だと思っていました」 早大記録を出せる手応えはあった。ただ、「あそこまでいけるとは……」と言うように、山口にとっても想定以上の出来だった。 山口は千葉県銚子市の出身。中学時代は陸上競技部に所属しながらも、リトルシニアで小3から始めた野球を続けていた。ポジションはショート。陸上でも県トップクラスの成績を挙げていたが、野球でも県内の強豪校から声がかかるほどの実力の持ち主だった。高校進学の際にも、どちらを選ぶか「すごく迷った」という。 一方で、中学生の頃から早大にあこがれており、「(系属校の)早実で野球をやろうかな」と考えたこともあった。父から「早稲田に行きたいなら、(陸上で)学法石川高(福島)はどう?」と勧められ、「陸上のほうが伸びそうだ」と可能性を感じていたこともあって、越境して学法石川高への進学を決めた。 高校では1年目で5000m13分台をマークし、2年時からはチームのエースとして活躍した。3年時には5000mで高校歴代3位(当時)の13分35秒16をマークしている。 そして、念願かなって早大に進学。1年目から主力となり、全日本大学駅伝では4区区間3位と好走し、チームの6位の力となった。しかし、箱根駅伝は直前に胃腸炎になった影響で、出走できなかった。チームはシード権奪回に成功したが、山口には悔しさが残った。 「1月2日に復路も走れないことが決まって、あの時は本当に悔しかったです。でも、あの悔しさがあったから、今強くなれているのかなと思います」 箱根後すぐに気持ちを切り替えると、走力を向上させるためにランニングエコノミーの改善、筋力の強化に取り組み始めた。 「動き自体にエラーが起こりやすかったので、改善しないと力がついてこないと思いました。プライオメトリクスというジャンプトレーニングに取り組んだことで、地面のとらえ方がうまくなり、動きが変わりました。ウエイトトレーニングに取り組んだことで爆発的な力が出るようになりました」 また、昨季までは「プレッシャーに弱い」と話していたが、メンタルトレーニングや大学のメンタルトレーニング論の授業で、精神面の成長もあった。 「1年目は周りばかりを気にして、緊張から思うような走りができないことが多かったんですけど、今はマインドが変わりました。いろんな経験を積んで、安定感が出てきたと思います」