箱根駅伝Stories/1年越しのデビューへ、早大・山口智規「他大学からアドバンテージを取れるような存在に」
チェコ遠征で感じた“世界”
心身ともに充実していることが成績にも現れている。2年生になる直前の3月には、TOKOROZAWAゲームズの3000mで、順大の三浦龍司や吉岡大翔(当時は佐久長聖高)、城西大の三本柱(ヴィクター・キムタイ、斎藤将也、山本唯翔)といった他大のエース格に競り勝って1着。前半戦は5000mを中心に好記録を連発し、関東インカレ1部も3位入賞を果たした。 9月には、先輩の石塚陽士、伊藤大志(いれも3年)と共にチェコ・プラハに遠征し、10kmレースに出場した。そこでは刺激的な出会いもあった。 「レース前日にジョグに行ったら、向こうから話しかけてくれて、一緒に練習して、いろいろ話をしました。レース当日も、次の日も一緒に朝ごはんを食べました」 その選手はタデッセ・ウォルク(エチオピア)。2021年のU20世界選手権で3000m金メダル、5000m銀メダルという実績の持ち主だ。山口らが出場したレースも、優勝したのはタデッセだった。 「大学4年生の年代の選手で、10000mを26分45秒で走っていても(シニアでは)国の代表になれない。すごい環境で走っていると思いました。日本は良くも悪くも恵まれ過ぎている。『世界、世界……』って言っていても、このままだと辿りつくことはできないなっていう感覚がありました」 同世代の実力者に大きな刺激を受け、そこから練習の質も量も上げていった。 そして、秋を迎えた。出雲駅伝は、2週間前に体調不良になった影響で納得のいく走りはできなかったが、それでも2区区間3位にまとめた。 全日本は2区区間4位。ほぼ同時にスタートした駒大の佐藤圭汰に5㎞過ぎに突き放され、青学大・黒田朝日にも抜かれてしまった。そう見ると、失敗レースに思われるかもしれないが、山口にとっては「やっときっかけをつかめた」レースだったという。 スタート直後からハイペースで入るのは、もともと山口のスタイルではない。2週間後の上尾ハーフで見せた、後半に上げていく走りのほうが得意で、言わば“他流試合”に挑んだ。佐藤に離された直後には一気に差が開いたものの、終盤には持ち直している。 「最初から突っ込んで、佐藤君にはボロボロにされたが、まとめることができました」 山口のバリエーションが広がったレースになった。 上尾ハーフでさらに自信を深め、いよいよ箱根駅伝に臨む。「他大学からアドバンテージを取れるような存在になれていると思う。スピードが生かせる区間を走りたいですね。上尾ハーフでは集団でも走れたので1区も走ってみたい。3区だったら丹所(健)さん(東京国際大/現・Honda)の日本人最高記録(1時間0分55秒)を狙いたい」。 1年越しの箱根駅伝デビューで、山口は鮮烈な活躍を見せそうだ。
和田悟志/月刊陸上競技