まるで「合成写真」のような異形な上腕 日本ボディビル体重別選手権で2度目の頂点に立つ
順当な勝利は、緻密な野心によってもたらされていた。 9月8日(日)、男子は体重別、女子は身長別にてボディビル日本一を争うJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)第28回日本クラス別選手権大会が開催された。 【写真】吉岡賢輝選手の「合成写真」のような上腕三頭筋
本大会70kg以下級の優勝者となった吉岡賢輝(よしおか・まさてる/29)選手が、日本クラス別ボディビル選手権大会で優勝を獲るのは2021年に続き2度目。1度目は下馬評の視野外からのジャイアントキリングである。その年、初出場の日本男子ボディビル選手権大会(体重無差別の国内最高峰となる大会)においても12位と一躍トップビルダーに名を上げた。 当然、今回の勝利については「本命となる日本男子ボディビル選手権大会に向け絞りのピークに余白を残した状態だが、ファイナリストとしては順当な優勝」と多くが評した。傍目から見ればそうであろう。だが、吉岡選手は今シーズン、さらなる飛躍に向けて大きく肉体造形の方針を変えていた。 「トレーニングプランを変えようと思ったのは、昨年の日本選手権のあとくらいからです。何かを大きく変えないとこれ以上の上昇は望めない。そう思ったからです」 日本男子ボディビル選手権大会において、2022年、2023年とも10位という成績でとどまっている現状を打破したいという思いからだった。そして今年、吉岡選手のオフシーズンは例年より一カ月短かった。昨年10月29日(日)に開催された木澤大祐(きざわ・だいすけ)選手・合戸考二(ごうど・こうじ)選手主催による新規ボディビル大会、『JURASSIC CUP』への参戦のためだ。この大会において、吉岡選手はピークを日本選手権のまま維持、最高位のカテゴリーとなるグランドクラスで4位につけている。この状況下でさらに肉体を進化させるには、抜本的なトレーニング法の改革が必要だと強く感じたという。 「具体的な変更点として一番大きいのは分割法の変更です。これまでは脚を表と裏で分けるなど週6、7部位に細かく分けていたところを、4分割にまとめました。1日のオフを入れ、7日で2回同じ部位が回るようにしました。こうすれば、少なくなったオフシーズンを補う練習量が確保できるからです」 トレーニング種目は昨年と変えていない。一回のトレーニングボリュームは減らし、一部位を1日で徹底的に追い込むのではなく、トレーニング頻度を上げることで通年の総ボリュームを増やした。この転換は、誰の教えでもなく自身で考えたものだという。 「また、メニューの順序を完全に固定、インターバルの時間もストップウォッチを導入して完全に固定しました。条件をすべて同じにすることで、1種目目の重量だけではなく最終セットまでの記録がすべて伸びているかで通年の漸進的成長を判断しました」 通常、記録において最も意識されるのは1セット目の重量である。ここが下がっていなければ使用重量は下がっていないと判断する選手も多い。だが、吉岡選手はセット全体の重量に着目した。「最終セットまで全て前回の自分を超える」を目標として取り組んだ。 吉岡選手は常に、淡々と語る。感情を表に出さず、なんでもないように言葉を紡ぐ。だが、その胸中にはすさまじい闘志を秘めているように見える。同大会80kg以下級で新王者となった寺山諒(てらやま・りょう)選手は、「吉岡くんがトレーニングをしていると、遠くからでも分かるほど周りの空気が変わる。そのくらいの気迫がある。自身も非常にいい影響を受けた」と語った。 結果は肉体の変化として見事に現れた。日本クラス別での吉岡選手は、絞りの余白を引いても明らかにフォルムが変化していた。特筆すべきは吉岡選手の持ち味である上腕の異形とも言える発達に大胸筋、わきから覗く広背筋などの迫力が全く引けをとっていない。実測の変化を聞いた。上腕1cm、脚部1cm、胸囲はなんと4cmの増。ウエストはそのままだという。抉れ込むように細く見えた腹囲は、他部位の成長によるものだった。 「この変化がどう見られるか、それを確認したくてクラス別に出場しました。自分自身は優勝するつもりでしたが、客観的な判断が欲しかった」 優勝という結果に対しても飄々とそう答えた吉岡選手が見据えるのは、言うまでもなく次戦の全日本での上昇である。 「例年は65kgだった仕上がりですが、今年は68kgになる予定です。除脂肪はここから先は数gでも見え方が変わる世界になりますが、できれば-2kgを目標に絞り込みを強化したい。目標は6位以内です」 今年、大きな進化を遂げた吉岡選手。3連覇の絶対王者・相澤隼人(あいざわ・はやと)選手不在により波乱必至となる日本選手権をさらに掻き回すか。過去最高の身体で臨む最高峰の舞台に期待が寄せられる。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材:にしかわ花 撮影:中島康介