需要が大揺れ「タイの自動車市場」に異変あり
それが2023年4~9月期ではピックアップトラックが33.9%と大きく落ち込み、ICEが47.4%と微増、HEVが9.3%と微増、そしてBEVが9.3%と実に9倍も伸びているのだ。 その後、2023年末の単月ではBEVは20%にまで達したが、今年に入ってから反転してシェアが落ちている。 ■ネガティブイメージ+与信審査の強化で こうした直近でのBEV市場の変化について、自動車メーカーのタイ法人関係者の間では「いくつかの中国BEVブランドに対する技術やサービスへの信頼が損なわれ始めている」という共通の認識がある。
また、充電インフラの整備が行き届いていなかったり、充電器があっても故障していたりと、ユーザーがSNSでBEVに対するネガティブコメントを発信している場合もあり、そうした声も市場全体に影響を与えている可能性もあるようだ。 足元では市場の見通しがつかない状況にあるため、BEVを生産していない自動車メーカーでも販売店やユーザーとの情報交換を短期かつ定期的に行い、市場動向に関する独自の聞き取り調査を強化しているという。
一方、ピックアップトラックのシェアが落ちているのには、別の理由もある。 最近、タイではローン販売における与信審査が強化されており、ピックアップトラックの主な顧客である農家や個人事業主の収入が安定しないため、ローン審査に通る人がかなり減っているというのだ。 そもそも、タイで中国BEVの需要が一気に増えた背景には、タイ政府が目指すBEV産業構築に向けた動きがある。 タイは「ピックアップトラックのデトロイト」と呼ばれることがあるなど、ASEAN域内、中南米、中東、アフリカなどに向けて、ピックアップトラックを軸足に製造・輸出する政策で成功してきた。
これによって、トヨタはIMV(イノベーティブ・インターナショナル・マルチパーパス・ヴィークル)、三菱自は「トライトン」やトライトンをベースとした「パジェロスポーツ」、そしてフォードは「レンジャー」といった世界戦略モデルを開発・生産している。 なお、いすゞには「D-MAX」というピックアップトラックがあるが、他社と比べてタイ国内での地産地消の傾向が強い。 ■補助金制度でタイ国内へ工場を誘致 筆者はこれまで、こうしたメーカー各社の製造拠点のいくつかを現地取材しており、各社のピックアップ開発の状況を定点観測してきた。そうした中で、タイ政府が2000年代から打ち出してきたエコカー政策は、あまり大きな効果がなかったといえる。