小説のタイトルが『小説』……前代未聞の「野﨑まど」ワールドは、「宇宙」「妖精の国」「アイルランド」となんでもアリ!?
アイルランド、宇宙、妖精の国!? ジャンル不可分の「まどワールド」炸裂
──おっしゃる通り、後半からは舞台が日本から離れて妖精の国に移り、まるで神話のような物語が展開されていきます。読者を置き去りにしないよう心がけた点はありましたか。 心がけたいとは思いつつも、後半はどれだけ現実から離れられるかの勝負でもありました。そのため前半でリアリティを貯金しておいて、あとは頑張ってついてきてほしいと願いながら思う存分に弾けさせました。 ──前半と後半、どちらが書いていてより楽しかったですか。 どちらも楽しかったです。前半で「その少し前、一三八億年ほど遡った頃には……」と宇宙が誕生する瞬間に移るところは書いていて最高に楽しかったですし、舞台が妖精の国に移ってからも、登場人物が着ている服は現実のままなので、妖精の国でも着られるGUは良いメーカーだと思いました。また、後半に関しては過去の名作から引用した箇所も多く、僕自身好きな本を読みながら好きなように小説を書くことができました。元ネタを探しながら読んでいく楽しみ方もできるのではないかと思います。 ──本編を読み終わったあとは途方もない場所に連れていかれたような気持ちになりました。「ジャンル:野﨑まど」としかいいようのない、タイトルからは予想できない読後感です。 ふだんからジャンルを決めて書くとその通りにならないことが多く、手癖に則って書いています。今回もミステリーのようでファンタジーのようでもあって、結局ジャンルを気にしない内容になりました。 ──登場人物も、ある意味”時代を超えた”様々な背景を持つ面々が登場しますが、書いていて楽しかったキャラクターはいましたか。 物語の本筋と関係ないほど楽しくなってくるところがあります。税理士の田所家蔵が娘と出かけるシーンや、石器時代に生きていた人類がダチョウの卵殻に字を彫るシーンは特に楽しく書けました。 ──ダチョウの卵殻……。小説をつくりあげる「文字」が生まれる感動のシーンでしたね。前半から後半、物語の本筋や特に関係ない隅々に至るまで、野﨑さんの小説に対する愛を強く感じました。 僕は漫画や映画も好きなので、小説だけが特別というわけではありません。とはいえ小説のことが好きなのは間違いなく、好きだからこそ、書いているときもどういうオチになるのかまったくわからなかったです。小説はすごいものかもしれないし、実はぜんぜんすごくないものかもしれない……。小説とはなんなのか、探しながら書いていきました。 【後編】「小説は論文と似ていると思っています」小説を通して提示される大胆な結論……「衝撃」を与えるにはとある「秘訣」があった はこちら! 野﨑まど『小説』 五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、内海集司の人生は小説にささげられることになった。 一二歳になると、内海集司は小説の魅力を共有できる生涯の友・外崎真と出会い、二人は小説家が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込む。 そこでは好きなだけ本を読んでいても怒られることはなく、小説家・髭先生は二人の小説世界をさらに豊かにしていく。 しかし、その屋敷にはある秘密があった。
あわい ゆき(書評家・ライター)