小説のタイトルが『小説』……前代未聞の「野﨑まど」ワールドは、「宇宙」「妖精の国」「アイルランド」となんでもアリ!?
想像世界の美しさと、綺麗事だけでは立ち行かない現実
──本作では内海集司と外崎真、図書室で出会った二人が小学校の横に佇む怪しげな建物「モジャ屋敷」を訪れ、交流を深めていきます。小説を読むことが大好きな二人は唯一無二の関係を築いていきながらも、少しずつ別の道を進んでいく展開になっていました。二人のうち、書きやすかったのはどちらでしたか。 内海も外崎も個性がはっきりしていて、自分とは大きく異なる人間だったのでどちらも書きづらかったです。二人ともそれぞれの意見や生き方が明確で、物語を組み立てるなかでキャラクター像にズレが起きてしまうと、修正が難しくて大変でした。 ──二人の苗字も「内」と「外」で対になっていますね。これまでの作品にも個性的な人物名がよく登場していますが、登場人物の名前はどのように決めているのですか? 漢字には意味が宿るので、キャラクターを考えていくなかで象徴的な一文字をまず選んでみて、残りの字を考えて人物名をつくっています。今回はなるべく現実に寄せるべく、地味な苗字にしようとも思っていました。 ──なるほど……! 本編を読み終えると、確かに二人を象徴する一文字になっていると思います。そして大人になった二人は同じアパートで貧しい共同生活を送るようになりますが、その描写からは確かに過去作と比べても「現実」の匂いが強く感じられました。 本作では小説というフィクションをテーマに「心の中の世界」について論じたわけですが、一方で我々は食べていくために日々お金を稼がなければならない現実から逃れることもできません。作品の中でもそうしたリアリティを意識していました。ちなみにボロアパートの壁を摑んだらシロアリに喰われていたエピソードは実体験が基になっています。 ──リアリティといえば、森見登美彦さんや宮内悠介さんのような野﨑さんと同年代の小説家も、実名のまま名前だけ登場しますね。 リアリティを確保するために、自分の好きな作家さんの名前を何名か挙げさせていただきました。今回は後半になるとガラッと雰囲気が変わり、ファンタジックな神話の世界も経由した末に「小説とは何か」の答えに行きつくわけですが、展開がファンタジックといえど、導き出した結論は決して幻想でも作り物でもなく「ほんとうのこと」だと思っています。なので序盤から中盤にかけては可能な限り現実と地続きの描写にすることで、「噓ではない感じ」がフィクションに乗ればいいなと思って書いていました。