ハリー・ポッター、グーグル検索、GUI…革新的なアイデアは、なぜ最初は無視されてしまうのか?
過去の経験を振り返れば、成功の理由は明らかなように思われる。理由はどんどん思い浮かぶ。実際、大ヒットしたどんなアイデアについても同じことが言える。創造力に富んだサクセスストーリーは、比較的容易に理解、分析、説明、伝達できる場合が多く、したがって、私たちはそこから学ぼうとする。 当然だ! 何かまずいことでもあるのか? 残念ながら、革新的なアイデアを見たり聞いたり、それに触れたりして学んでいくうちに(つまり経験を重ねるうちに)、創造的なアイデアを生み出す直感が歪められ、結果として、自らの創造的な潜在能力が損なわれることになってしまう。 なぜそんなことになるのかを突き止めるために、こうした経験をする前の時点にまでさかのぼろう。つまり、アイデアはあっても、その重要性がまだ明らかになっていなかった時点にまでさかのぼるのだ。そして、その分野で最も豊富な経験を積んでいる専門家が、初めてそのアイデアを聞いたときに、どう感じたかを想像してみよう。 あるアイデアが好評を博し、大成功を収めたさまざまな理由が、現在の私たちにとって明白であるとしたら、当然、そのような理由の多くが、経験豊富な専門家にとって一目瞭然だったに違いない。それまでの経験を活かして、ゆくゆくどうなるかを正しく予測し、利益をもたらす決断を下せたはずである。 ところが、あながちそうとも言い切れないのだ。 冒頭で思い描いてもらったアイデアはどれもみな、革新的(イノベイティブ)で創造的(クリエイティブ)であればあるほど、その分野の専門家の経験と衝突しがちだった。それゆえ、そのアイデアは、大ヒットする直前まで、その分野の多くの専門家に却下されたり、無視されたりしていた。
『ハリー・ポッター』シリーズの第一作が書かれたエディンバラのカフェの入口で、出版社が列を作って待ち受けていたわけではない。それどころか、『ハリー・ポッター』は、名だたる編集者や出版社に、一度や二度ならず、十数回も容赦なく却下された。 ようやく契約を結んでくれた出版社でさえ、この本がそれほど売れるとは思っていなかった。ロンドンに拠点を置くブルームズベリー社がJ・K・ローリングに支払った印税前払金(アドバンス)はささやかな金額で、『ハリー・ポッターと賢者の石』の発行部数はわずか500部にすぎなかった(この希少な初版本には現在、一冊数千ドルの高値がついている)。出版業界での経験が『ハリー・ポッター』の驚くべき潜在力を見誤らせたのである。 1990年代後半に、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジが、グーグル検索の基礎となる仕組みを思いついたとき、その時代の大手インターネット企業各社が彼らとの面談に応じた。当時のウェブ検索の市場を牽引していたこうした投資家や専門家は、やがて自分たちを撤退させ、その後数十年にわたって市場を席捲(せっけん)することになるアイデアに、その時点で投資するチャンスを握っていたのだ。 ちなみに、それからわずか数年後に、グーグルの時価総額は数十億ドルに跳ね上がり、世界で最も価値のある企業の一つとなる。 ところが、グーグルの創業者たちが、その技術に対して160万ドルの対価を求めると、どの客からもたちまち突っぱねられた。インターネットや検索システム分野での経験が、グーグルの驚くべき潜在力を見誤らせたのである。 先見性に富んだグーグルのクリエーターたちでさえ、その技術の将来性を完全には理解していなかったと思われる。なぜなら、その数年後に付くことになる価値のほんの一部で、それを手放そうとしていたのだから。