「どれだけ拡大しても本物」鉛筆で描くボルト 強迫性障害で一度は〝引退〟した作家、復活の背景は
「金属にしか見えない」「存在感に圧倒される」……。SNSに投稿されたボルトとナットの画像が話題です。光沢や細かな傷、水滴などは一瞬、写真と見間違えそうですが、すべて鉛筆で描かれています。自身の〝神経質さ〟を逆手にとって作品を描いていましたが、いったんは鉛筆を置いた作家。再び鉛筆画家として歩み始めた背景を聞きました。(withnews編集部・河原夏季) 【話題の画像】鉛筆で描いた〝ボルト〟 拡大しても本物すぎ…「金属にしか見えない」
制作期間は5カ月、計280時間
ボルトを描いたのは、岡山市に住む鉛筆画家の大森浩平さん(30)です。6月中旬、X(旧Twitter)に鉛筆画を投稿しました。 <鉛筆で5ヶ月ほどかけて描いたボルトとナット、今思えばちょっとどうかしてた。 ――大森浩平さんのX(@kohei6620)より> 投稿には「どれだけ拡大しても本物」「金属にしか見えない」「写真を超越して未知の次元」というコメントが寄せられ、「いいね」は16万を超えています。 大森さんによると制作は2017年で、制作期間は5カ月、計280時間をかけて描きました。使った鉛筆はHから4Bまで7種類。色の濃淡を使い分けます。 制作するうえでまず取り組む作業は、写真撮影です。 「天候が違うだけでも、モノの見え方や表情が変わってきてしまいます。描写対象に感じた魅力や美しさが一番引き立つ瞬間を写真に『固定』し、拡大して見ながら肉眼では拾えない部分まで描きました」 ライティングや構図にこだわって何十、何百とシャッターを切り、納得のいく1枚を選びます。「その手法だからこそ、ピントが合っている部分と、ピントがぼけている部分の前後感まで表現できるんです」 当時、一眼レフカメラを購入しましたが、使ったのはボルトの撮影時のみ。「カメラへのほこりや湿気の影響が気になって手元に置いておくことができませんでした。最近はスマホのカメラで撮影しています」
兄と競い合った幼少期
幼稚園の頃から図画工作が好きだったという大森さん。「自分は昆虫や恐竜図鑑の模写や、細部の書き込み・作り込みがやりがいでした」 3歳離れた兄も工作が得意で、お菓子のパッケージやトイレットペーパー・ラップの芯を使い、ロボットや銃を作って遊んでいたそうです。負けず嫌いだった大森さんは、「うまく描きたい、うまく作りたい」と競い合いました。 小中学校時代は夏休みの課題で描いた絵画が表彰されることもあり、自身の得意分野だと確信していったといいます。 しかし、同時に自身の性格の変化にも気づきはじめました。「なぜかと説明することは難しいのですが、中学3年間を過ごすうちにだんだんと神経質になり、萎縮して細かいことが気になるようになっていました」 普通科の高校に入学しましたが、「1日にいろんな授業や課題をこなすこと」へ負担を感じていたといいます。2年生に上がる頃は学校へ通うことにも限界を感じ、夏から通信制の高校に編入しました。 「人と会うことは苦手ではないのですが、一つずつじっくりかみ砕いて修得しないと進められないため、学校生活に適応するのが苦手だったのかもしれません」