「どれだけ拡大しても本物」鉛筆で描くボルト 強迫性障害で一度は〝引退〟した作家、復活の背景は
美術館長の提案に動かされた
一度は鉛筆を置いた大森さんでしたが、2023年10月、再び鉛筆画を描く動画が公開されました。きっかけは、岡山県にある瀬戸内市立美術館長・岸本員臣(かずおみ)さん(74)からの「個展」の提案でした。 岸本さんはSNSでの〝引退宣言〟には気づいていませんでしたが、2017年に地元紙で大森さんの「ボルト」を見てからというもの、直接自宅に作品を見に来てくれたり、グループ展に誘ってくれたり、声をかけてくれる存在だったといいます。 「認めてくださる方や求めてくださる方がいる以上は、進み続けられたら」 作品の保管や運搬に感じるストレスを伝えると、岸本さんのもと美術館で保管してくれることになりました。「今まで背負っていたものを少し下ろせ、もう一度描けるようになりました。岸本さんのおかげです」 館長の岸本さんはボルトの絵を見たとき、「突き抜けすぎている」と胸を打たれたそうです。 「大森さんの絵は人々に感動を与えられる作品だと確信している」と話します。 「どうしても美術館で個展を開いてもらいたいと思いました。大森さんの作品は技術もダントツですが、『ピュア』で『プリミティブ(根源的な)』な美の感性があります。大森さんの『美』のフィルターを通しているからこそ、ボルトのような日用品もとても美しく表現されるのだと思います」 大森さんから〝引退〟を聞いたときは驚きましたが、「環境を整えておかないとあのような作品は生まれない。何とかしたい」とサポートを申し出ました。
「限界値を押し上げられるような作品を」
こうして開かれた大森さん初の個展「鉛筆画 大森浩平展」。ボルトをはじめ、腕時計や蛇口、スニーカー、ビール缶など、生活のなかにあるアイテムを中心とした鉛筆画が15点展示されています。 大森さんがモチーフ選びで大切にしていることは、海外の人も含め、老若男女に質感や重さ、手触りがイメージできるもの。 ヒントを得るためにホームセンターを訪れることもあり、「ボルトはパッと目が行って『これだ!』と思いました」。 金属を描く鉛筆画が多いことについては、「金属はモノクロでも自分が感じた魅力や美しさが損なわれず、むしろ引き立つ」と考えています。 写実的な鉛筆画で多くの人を驚かせてきた大森さん。 今後については「見てくださる方が自ら設定してしまっている限界値を押し上げられるような作品を描いていきたいです。みなさんがエネルギーや原動力を感じてもらえたら」と話しています。 「鉛筆画 大森浩平展」は6月30日まで。