「課長、新入社員と不倫してるらしいよ」32歳主任が職場を崩壊寸前に追い込む「ひどいデマ」を流したワケ
根も葉もない噂で、職場崩壊…
C川さんは、いつの間にか憂さを晴らすかのように 「B山さんってね、A塚課長に取り入って課長代理にしてもらったんだって。おとなしそうな顔しててよくやるねえ……」 などと、冗談っぽい口調でメンバー達や他部署にいる同僚らにささやくようになった。 C川さんの軽口はいつの間にか噂として社内に広まり、メンバーから白い目で見られるようになったB山さんは困惑したが、我慢しながら黙々と仕事をこなした。軽蔑の視線はA塚さんにも向けられたが、週の半分は埼玉営業所に通い、本社の席を空けることが多かったので、特段気にも留めていなかった。C川さんはA塚さんの反応が気に入らず更に噂を流す機会を狙った。 9月上旬、中途社員で入社したD谷さん(27歳・女性)が総務課に配属され、A塚さんが週3日の本社勤務日にマンツーマンで仕事を教えることになった。最初は職場に慣れないせいで緊張していたD谷さんだったが、A塚さんの熱心な指導でどんどん仕事を覚え、お互いに冗談を言い合えるまでになった。A塚さんは普段から仕事中でもたまにジョークを飛ばすことがあり、メンバーたちは2人の様子を見ても特に気にしていなかったが、C川さんは、 「A塚課長はD谷さんに仕事を教えていると言いながら、いつも冗談ばかり言って気を引こうとしてる。怪しいぞ。2人は付き合っているに違いない」 と言い始めた。当初周囲は 「いくら部下をえこひいきして昇進させた課長でも、まさか新入社員に手を出すことはないでしょ?」 と相手にしなかったが、C川さんがさも2人の不倫現場を見たような口調でおもしろおかしく話すので、やがて誰もがその話を信じるようになった。 C川さんがデマを流し始めてから2週間後。昼休みにメンバーの先輩からその話を聞かされたD谷さんは仰天し、いくら否定しても「あなた会社に彼氏でも探しに来たの?」などと返され、唇をかみしめた。2人の不倫話はA塚さんの耳にも入り、部下たちからそんな目で見られていることに強いショックを受けた。C川さんのせいでA塚さん、B山さん、D谷さんの社内での立場は悪くなるばかりで、B山さんは精神的に参ってしまい徐々に仕事が手につかなくなっていた。 「えこひいき、部下に手を出す課長とは一緒に仕事したくない」 「真面目な顔してどう課長に取り入ったんだろう、すごいね」 「入社早々上司に色目使ってどうするの?どうせちゃんと働く気、ないんでしょ」 などと噂から出た悪口が収まる気配はなく、職場の雰囲気は悪化していった。 11月下旬、根も葉もない噂のせいでメンバー達から嫌われ頭にきたD谷さんは、甲社長のところへ駆け込み、 「私、A塚課長とはつき合ってません。仕事を教えてもらっているだけなのに、何でこんな風に言われるんですか?デマを信じるなんてこの会社最低です。もう辞めさせてください」 といきなり訴えた。しかし事情がわからない甲社長はただ驚くばかりだった。 * * * 今回、ひどいデマで職場の和を乱したC川さんは「不満拡散型社員」の一種。自分が感じた不満を積極的に他の社員に伝えることで、その感情の共有や同調を促すのが狙いだ。不満拡散型社員には、他の社員のモチベーションを落とし、チームワークを崩壊させるといったデメリットがある。 企業が不満拡散型社員を防止するにはどうすればよいか?処分はできるのか?そしてC川さんと関係者の「その後」はどうなったのか……。くわしくは後編記事〈同期に出世で負け「ひどいデマ」を流した32歳主任の末路…職場を崩壊に追い込む「不満拡散型社員」は処分できるのか〉で解説する。
木村 政美(社会保険労務士)