「小中高サッカーで不幸になる子を減らしたい」ジーコがスカウトしたサッカーコーチが見る未来
子どものひとり一人を尊重している
戦術の定義を、例えば型にはめるとか、ここにボールが来たら君はこう動いて、ああ動いてといったパターンだととらえている大人がいるが、そうではない。彼曰く「次何しようかな?」が戦術であり、それを「どうやってやろうかな?」が技術だそうだ。子どもたちの「何しようかな?」をよりシンプルに、簡略化できるトレーニングをスクールで施し、入会時には保護者にそのことを動画で丁寧に説明する。そして、その指導方法を講習会でコーチたちに伝える。日本初のサッカー指導者向けサイト「COACH UNITED」の動画コンテンツでも人気の講師だと聞く。 戦術指導についての学びがまだ少し足りていないコーチについて、上田原さんは「抽象度が高すぎます。周り見ろとか、もっと考えろとか、いつ何を見るのとかを伝えてほしい。もっと判断しろと言うけれど、どんな判断があるか選択肢を示したほうがいい」と話す。曰く「具体と抽象を行き来できるコーチ」は良い指導者だという。 最終目的地を「僕がやっているような(戦術を教える)スクールがなくなることです」と言い切る。多くのコーチから戦術を学べるサッカー環境をつくることだ。そうなれば、俊足でなくても、体が小さくてパワーがなくても、戦術理解を武器に戦える。これまでならふるい落とされたであろう子どもたちに、大きな「強み」を与えることにもなるだろう。 上田原さんを見出したジーコは鹿島に「ジーコスピリット」を注入した。献身的で誠実、仲間を尊重する精神だ。そんな熱が根底にあるからか、彼の講習を眺めていると言葉の扱いが非常に丁寧だ。子どものミスや未熟さを決して否定せず「こうするとできるかも。どう思う?」と問いかける。子どもに対し、献身的で誠実。ひとり一人を尊重している。 情熱には正誤があると思う。彼のような正しい情熱を持つ指導者が少しずつ増えている。
島沢 優子(ジャーナリスト)