「小中高サッカーで不幸になる子を減らしたい」ジーコがスカウトしたサッカーコーチが見る未来
「指導者が言いすぎる」ことの弊害
ある少年団に「飛び抜けていい子」がいた。指導者の想像力やアイデアをはるかに超えるような選手だった。卓越した創造性をプレーで表現している彼に向って、指導者はああしろ、こうしろと指示命令を繰り返していた。 「今の日本は、選手のほうが(指導者より)能力が高いと僕は感じています。今のままでは指導者が教えきれません。もちろん選手のことを尊重してやってくれる人だったらまだいいのですが、自分の価値観や固定観念を無理やり押し付けてしまいがちです。指導者が言い過ぎることによって、その指導者(のアイデア)を超える選手は出てきません」 せっかく選手も指導者も懸命にサッカーに取り組んでいる。それなのに、上田原さんが発見した飛び抜けた子は結局つぶれてしまった。それを見たとき「日本はもっと指導者を育てなきゃいけないと考えました」。 大人を変えなければ、子どもに幸せは訪れない。であれば、自分が大人を変えよう。そこから3年ほどかけて考え続け、2021年1月にアントラーズを辞め、スクール開設とフリーランスのコーチングデベロッパーになる準備を始めた。
「サッカーのコーチのコーチ」から学んだこと
まずは「日本を世界基準のサッカー大国に」をテーマに「サッカーコーチのコーチ」として活動するオランダ在住の倉本和昌さんのオンライン講座に参加した。自身がやろうとしていることに一足先に取り組んでいた倉本さんからの学びが、大きな糧になった。 最も印象的だったのは、サッカー先進地の欧州など海外では育成年代に基本的な戦術を身につける指導をすること。そのうえで、選手がプロになった後はそれぞれ自ら考え成長を遂げるというプロセスだった。一方、日本の場合は、小学生の間は特に止める・蹴るといった足下の技術へのアプローチにとどまり、プロになってから戦術を学び始める傾向があった。したがって、海外のように16歳や17歳でトップレベルの動きができる選手が出現しないともいえる。 このことについてJリーグで指導してきた複数のコーチに尋ねてみたが、全員が同意見だった。例えば、ボールをもらうための基本的なポジショニングがとれない。どこにポジションを取って優先順位は何なのかが理解できないまま大学やプロに進む選手が少なくないという。上田原さんの講習を受けたコーチのひとりは「上田原さんのスクールの子どもができているようなことができない高校生や大学生は多い。全員プロを目指すようなチームにいる選手ばかりです」と話す。 この話に上田原さんもうなずく。 「そういった(戦術的な理解が乏しい)選手は何人も見てきました。もちろん他の能力が長けているからプロになれるわけですが、戦術的なことが早くからできていたら、もっと早くトップレベルで活躍できるんじゃないかと感じました」