「小中高サッカーで不幸になる子を減らしたい」ジーコがスカウトしたサッカーコーチが見る未来
乾選手、久保建英選手の成長の理由
早くにトップレベルに達したうえで海外でプレーできれば、より高みに駆け上がれる可能性は高まる。そのひとりとして、倉本さんは乾貴士選手を挙げる。ロシアW杯で大活躍をした乾選手はワールドクラスの選手になった。が、もっとポテンシャルがあったとみている。 「乾選手はドイツとスペインで戦術眼を鍛え、大きく成長しました。ただ、もっと早くからそれができていたら、さらに違う選手になっていた。バルサでプレーしていたでしょう」 上田原さんの頭に浮かぶのは久保建英選手だ。久保選手が川崎フロンターレに所属する4~5年生のころ、鹿島の子どもたちとよく試合をした。その当時は「上手いけどJクラブだったらこのクラスの子どもはいるかなっていうぐらいの印象でした。その後バルサに行ってから他の同年代の日本選手と大きく差を広げました」と分析する。 倉本さんの講座を受けることで「点と点が線になった」という。倉本さんに対し「僕が学びたかったことや、日本サッカーに足りないことが体系化され、かつ言語化されていた。おかげでいい準備ができました」と感謝する。 21年4月、蹴和サッカースクールを茨城県取手市に開校。看板に「戦術教えます」と掲げた。目の肥えた親たちの支持を集め、スクールは瞬く間に三つに増えた。 練習のモットーは「サッカーを知らないお母さんにもわかる練習」だ。サッカーを経験してない大人が理解できない練習では、子どもも理解できないと考える。 「例えば、コーチからサポートと言われると、常にボールに寄っていったり、やみくもに動いている子どもがいます。サポートって、いつ? どこで動くかなどタイミングが大事。場合によっては味方から離れてあげることがサポートになる時もあります」 そういったことを保護者にも説明する。すると、サッカーを知らない親たちが「あ、なるほどね」と肯いてくれる。さらに「スペースっていう概念がないんですよね」と困った顔をした。え? スペースがわからないの? 親御さんたちが? 子どもたちが? とこちらが混乱していると、「日本のサッカーに、です」と言う。 そういわれると、子どもも大人もスペースを上手く使えていないかもしれない。従って、上田原さんは小学生を前にして「ボールに人が寄っていくんじゃなくて、人がいるところにボールが来るんだよ」とサッカーの成り立ちを伝える。”いいところ”にいたらボールが来る。近づいていかなくても、ボールは来るよと話し、丁寧に教えていく。わかりやすい説明と適切なトレーニングを施すことで子どもの戦術的な力を伸ばすのだ。