「しんどいときにする判断は、全部間違い」作家・岸田奈美さんが語る“大丈夫じゃない日々”の乗り越え方
家族だから介護したくない、させたくない
本作には、17年前に心臓病を患い、下半身麻痺となったお母さまとのエピソード(「ドライブスルー母」)も登場します。長期入院で気持ちが沈んでしまうお母さまと、お見舞いに行く高校2年生の岸田さんの思い。家族という近い関係で支え合うことの難しさも、感じます。 岸田「難しいですねー。実は、最近になって母から聞いたのですが、母は病気で倒れた後、自分の意思で退院を1年間延長したそうなんです。もっと早く退院できるはずだったのに、みずから志願して、過酷な入院生活を送ることを選んでいたと。 なぜ、わざわざそんなことを?と不思議だったのですが、母にはどうやら『娘に、自分の身の回りの世話をさせてはいけない』という強い思いがあったようなんですね。親として、子どもたちに迷惑をかけてはならない。むしろ子どもたちに何かしてあげられるような状態になるまでは、絶対に家に帰らないと決めていたって。 一方、娘の私にも『自分のやりたいことを犠牲にするほど、家族に尽くしてしまうのは違う』という思いがあって。だから親子の関係で介護をするのは、とても難しいものだと思います。本当はしたくないし、させたくない。家族だからこそ、頼ることができない面もありますよね。 それにどれだけ思っていても、相手が家族だと、思いを言葉にするのがちょっと恥ずかしいときも。『家族なら、言わなくてもわかるやろ』という期待や思い込みもあるから、すれ違いも起きる。長い時間を共に過ごして自分の分身のように思えるときもあるけれど、同時に、誰よりも分かり合えない存在でもあるのが家族だなと」
助けを求められるのは「強さ」の証
頼りたくてもなかなか頼れない、分かるようで分かり合えない……。だからこそ「問題が起きたら、家の中だけで抱えていないで、周りの人たちや行政に助けを求めなければいけないときもある」と語る岸田さん。しかし「それがまた難しいんですよね」と腕組み。 岸田「周りの人がいくら『何かしたい』と思っても本人がそれを望まない、受け入れられないことが多々あります。助けが必要なのは弱い人、私はそんなに弱くない、と頼れなくなってしまう。 でも、本来は逆ですよね。人に助けを求められることは『強さ』のはずなんです。 助けてもらうことを“借り”のように考える必要はないんだと思います。もちろん感謝はするけれど、助けてもらった人に“今すぐ返さなければ”と焦らなくていい。いつか自分が『だいじょうぶ』になったときに、他の誰かにちょっと優しくしてあげるくらいが、ちょうど良いのかもしれません」