往年のNAオーナーが楽しめる「大人のロードスター」 電動ハードトップのRF
断っておくが、NCとて無策に作ったクルマではない。真面目に作られたクルマだ。そこからこれだけの長さと重さを搾り取るのは正直な話「手品」にしか見えない。 さまざまな工夫が凝らされた中で、大きかったのはシート背後の荷物スペースの切り詰めだ。だがそれはそれで問題が発生する。ロードスターはFRとしては異例に着座位置が前にあるクルマだ。そういうプロポーションでバランスが取られている。シート背後を単純に詰めたら、プロポーションバランスが崩れ、ロードスターの新型に見えない。しかしながらコンパクトに軽量にというのはもう避けて通れない。その無理難題の解決を迫られたのが開発当時チーフデザイナーだった中山氏だ。
「手品」を実現したプロポーション改革
中山氏はその矛盾を解決するために知恵を絞った。何をやったかと言えば、Aピラーを70mm後方に移動したのだ。リヤホイールとドライバーの位置が近づくということは、ドライバーとAピラーの間が相対的に間延びする。だからAピラーは後ろに引かないと形にならない。 Aピラーの付け根にあたるフロント隔壁は、人体で言えば骨盤のような構造強度上の要所である。それを変更するのはシャシー構造にとってかなり大変な作業だったが、エンジニアと協力しながら、一つずつ問題を解決していった。オーバーハングを徹底的に切り詰めた低いノーズは、Aピラーの移動によって、前輪-Aピラー間が相対的に長くなった。そうして短いオーバーハングながらロングノーズ・ショートデッキのプロポーションを実現した。歴代ロードスターの着座位置バランスを大きく変えつつ、ひと目でロードスターだと思わせる形にまとめたところに現在のマツダデザインの力量があると言えるだろう。 手品のようなスペースの裁量で実現されたNDにとって、ハードトップのルーフをどうやって収納するかは極めて厳しい問題だった。中山氏は述懐する。「幌モデルを作っている時から、ああ、これハードトップどうしよう。とは思っていたんですね。収納場所がない。だけど、NDを軽量にするためにはコンパクト化はもう避けられない。だからまずは幌モデルにベストを尽くしました。その上で、RFだけホイールベースを伸ばしたり、トランクを完全に潰すのは絶対止めようと思いました。それではロードスターじゃなくなってしまいますから」。 「ある意味、窮余の策かも知れませんが、ルーフ部分だけの収納を考えました。するとリヤクォーターのピラーのデザイン自由度が上がるわけです」。そうやってロングノーズに相応しいファストバックスタイルが出来上がった。「ホントは最初から流麗なファストバックスタイルを狙ってましたと言った方がカッコ良いかもしれませんが、それじゃウソになっちゃいます」。