往年のNAオーナーが楽しめる「大人のロードスター」 電動ハードトップのRF
最も大きな変化は高速の直進安定性向上
マツダはRFを「大人のクルマ」だと位置づける。それは価格的に見てもそうだろうが、実際に走ってみると、走りもそこへ向けて綿密に調整されている。まずは2リッターに拡大された排気量が大きい。中低速のトルクが厚くなり、「踏んで回して楽しむ」1.5に対して、余裕のトルクで走るテイストに仕上がっている。ちなみにロードスターに関しては、どのモデルであろうともMTを勧める。ATがダメだとは言わないが、もしクルマの性格は変わらないだろうと思っている人がいたら、絶対に乗り比べてから決めるべきだ。正直な所、MTとATは別のクルマだ。ATはクルマ全体がダルい。そういうものを敢えて求める人以外、MTとの差は極めて大きい。
タイヤサイズは幌モデルの195/50R16から、205/45R17にアップされた。当然銘柄も違う。乗り心地が心配になりそうなサイズだが、それは心配しなくて良い。クルマの性格通りマイルドなものだ。そしてパワステの設定も穏やかになっている。 最も大きな変化は高速の直進安定性向上だ。細かく言えば色々あるのだそうだが、最も大きいのはリヤサスペンションのブッシュ容量を増やしている点だ。前後オーバーハングを徹底軽量化したNDは、路面の荒れで進路が変わりやすい。これはステアリングを切った時の機敏な動きとコインの裏表なので止むを得ないものだが、RFではそこを僅かに犠牲にして、高速の直進安定性を高めている。 と書くと堕落して、グダグダのゆるゆるに仕上がったクルマだと思われるかも知れないが、そこはNDの素養の高さが効いていて、並みのスポーツカーより遙かに俊敏なハンドリングも持ち合わせている。幌の1.5がその物理的素養を最大に引き出したものだとすれば、RFは限界を抑えることと引き替えに、日々の運転にはスパイスが利きすぎている部分を丁寧に調整したモデルである。その昔、NAを振り回して腕に覚えのある人が、もう一度ロードスターに乗るとしたら最適な一台だろう。
---------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある