まさに豊田章男会長が憧れた「おやじさん」だった…鈴木修さんが「インド工場の食堂」で従業員の心を掴んだ行動
■「お客様は神様」がインドで受け入れられた理由 スズキは人口が1000~2000人という小さな村にもサービス工場兼販売店を置いている。販売店の営業マンたちにとっては、初めて車を買うユーザーのために納車式を司ることも仕事なのである。スズキがインドでシェア40%を達成しているのは人々に「初めて車を所有する喜び」を提供し続けているからだ。 オサムさんは客を大切にする人だった。 スズキのインド販売店に行ったら、英語で「The customer is God」と標語が貼ってあった。「お客様は神様」である。 デリー郊外にあった販売店のインド人店長はこう言っていた。 「『お客様は神様』はインドに昔からあるサンスクリット語のことわざです。私たちはそんな気持ちでお客様に接しています。 そして、マルチ・スズキ本社とオサム会長からはつねに言われています。『新車を数多く売ることよりも、とにかくお客様を大切にしてください。お客様は神様ですよ。お金をくれる神様です』」 オサムさんは販売店がある小さな村には自動車教習所を作り、病院も建設した。インドの人たちがスズキの車を買うのはオサムさんがインドの人たちの味方だとわかっていることもある。車を売ることだけが目的ではなく、インドのために尽くす人だとわかっていたのである。 ■幹部が衝撃を受けたオサムさんの行動 オサムさんは初めてインドに工場を作った時から、従業員と一緒に食事をした。カースト制度がある国だから、インド人幹部は自分たちの執務室で食事していた。しかし、オサムさんは従業員の列の後ろに並び、同じカレーを食べた。 オサムさん自身はこう言っていた。 「インドにはカースト制度が生きていますからね。私どもが工場を建設した時、私は食堂で一般のワーカーと列を作って並んでいました。カーストが上の幹部は事務所の2階から列にいる私を見て、口を開けて、なんともいえない顔をしてました。でも、半年で変わったんです。 私は当時、毎月、インドの工場へ行きました。いつも、ワーカーの後ろに並んで、自分で食事を運びました。半年、それをやったら、カーストが上のマネージャークラスの人がワーカーと同じ食堂に並ぶようになりました。上から目線だった態度が変わったんです」 オサムさんはこの話が大好きだった。そして、現地の工場のワーカーたちもまたこの話が大好きだった。