完全な姿とどめたミイラ化恐竜化石を発見 ── カナダ・アルバータ州
ミイラ化恐竜の大発見
15日のNational Geographicに、カナダアルバータ州で“ミイラ化”した新種の鎧竜化石が発見されたことが発表されました。まるで彫刻のようなインパクトのある姿をとどめた化石発見は、今後の恐竜研究にどのような可能性を与えるのでしょうか。 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。 ---------- 「一度(ひとたび)生を享け、滅せぬもののあるべきか」。織田信長が好んだというこの「人間50年」からはじまる有名な敦盛の唄の一節には、古今東西、時空を越えた人類共通の生命観のようなものひそんでいるようだ。 しかし化石研究者は、長大な太古の時代から残された遺物 ― 化石 ─ に、何かしら「永遠の命」または「不老不死」のイメージをのぞいているのではないだろうか?たとえ非常に限られものしか化石記録として残らない運命(さだめ)だとしても。(化石として保存され、我々に発見される太古の生物は、確率として非常にわずかなもののはずだ。) 化石記録において、時として我々の常識を大きく超えたものが発見される時がある。例えば以前に紹介した恐竜の皮膚の化石(こちら参照)や氷付けのマンモス(こちら参照)。最古の生物の記録も(その「古さ」という点において)、驚きに値する(こちら参照)。 5月15日にNational Geographicにおいて発表された、「ミイラ化」した恐竜化石発見のニュースは、化石記録における我々の常識を大きく揺さぶるには十分すぎるインパクトを備えている。 あらかじめ断っておきたい。これは優れた恐竜アーティスト ─ 例えば荒木一成氏のような ─ によって復元された模型ではない。本物の白亜紀の化石骨格なのだ。「事実は小説より奇なり」とはまさにこのことだろう。 このミイラ化した恐竜の全身骨格の化石は、約1億1千万年前に死んだにもかかわらず、いまだに生きているようなたたずまいを備えている。「ふぅー」と今にも息をはき出しそうに(私には)映る。まさにミイラと呼ぶにふさわしい化石だ。 立体感をそなえ、完全な形で残されている頭骨。首から背中と尻尾にかけてぎっしり並んでいる、大小さまざまな鎧状の硬質な皮膚の骨の数々。ほぼ全てそろっているこうした鎧の骨は、首から尻のあたりにかけて、きれいなつながったまま保存されている。その鎧の下には手足や脊椎などたくさんの骨が、岩石とともに隠れているそうだ。 今回の発見は、世界中に多数ある今まで見つかってきた鎧竜の化石標本の中でも、「最高の保存状態」だという。 この恐竜がどのようにして具体的に死に至ったのかは、今のところはっきり分かっていない。しかし硬い硬質の皮膚で(背中側が)覆われている鎧竜という条件を差し引いても、これだけ良質のミイラ化した保存状態は、化石研究者にとって望むべくもない。我々にとって望む限り「最高の骨格化石」の一つであるのは間違いないだろう。(顎や手足の骨の一部、または歯の化石一つ見つけただけで大喜びしている私にとっては、まるで夢物語のような発見だ。)