日本の与野党が主張する「大規模減税」「補助金給付」は無理筋だ… イギリスの失敗から考える
10月27日の衆院選では、与野党を問わず、経済対策として大規模減税や補助金給付を主張していた。物価高で生活が苦しいのだから、それを経済対策で和らげるというのが与野党を問わない主張だ。 【全画像をみる】日本の与野党が主張する「大規模減税」「補助金給付」は無理筋だ… イギリスの失敗から考える しかしそうした経済対策は、短期的に生活を助けても、需要を刺激するため中長期的には物価高をむしろ促し、生活を一層苦しくする。 それに経済対策を実施すれば、財政は悪化する。大規模減税を行えば歳入は落ち込むし、補助金給付は歳出を膨らませる。歳出の悪化を国債の発行で補えば、その負担は将来世代に先送りされることになる。国債は資産であるからどれだけ発行しても問題ないだとか、日銀が買い続ければいいと主張する声もあるが、いずれも全くの誤りである。 身の丈に合わない大規模減税や補助金給付を実施しようとすれば、金融不安が起きる可能性がある。財政の悪化を嫌気した投資家が、国債と通貨を投げ売りし、リスク回避的となった投資家が株式を売り、いわゆる「トリプル安」が生じる。「トリプル安」が止まらないと、金融不安を飛び越えた金融危機が生じる事態も十分に考えられる。 実際にそうした経験をしたのがイギリスだ。
イギリスが「大規模減税」で苦境に陥ったのはなぜか
イギリスにおける2年前の金融不安のトリガーを引いたのが、2022年9月6日に就任したリズ・トラス元首相である。 トラス元首相は前任のボリス・ジョンソン元首相の片腕として知られ、政治的にはタカ派として知られた。一方で、経済的にはハト派であり、首相就任に当たって所得税の減税に代表される大規模減税案を発表した。 トラス元首相は高インフレに伴う生活苦に対応するため大型減税案を実施すると説明した。過去50年で最大規模の減税に踏み切うとたが、その減収分を国債の増発で賄う計画を投資家が嫌気したため、イギリスの国債と通貨、株式が大暴落した。特に通貨ポンドの対ドルレートは一時パリティ(等価)を割り込み、史上最安値を更新する事態となったのである(図表)。