“極端に低い”児童養護施設からの大学進学率「ガリ勉と馬鹿にされる空気が」当事者が感じた”見えない壁”
児童養護施設への入所も“自力”だった
ほかにも、あお氏は精神科を受診するなどの具体的な行動に出ているが、そのたびに家庭の闇は覆い隠されたという。 「父は私を『キチガイだ』と罵り、母親に命じて14歳の私を精神科に連れていきました。しかし受診した結果は『思春期にはよくあること』だとされ、睡眠薬を処方されて終わりでした」 周囲は頼れない。であれば児童養護施設につながったのも、まさに“自力”だ。 「17歳のときに登校するふりをしてそのまま児童相談所を訪れました。自分の身に起きている状況を述べると、保護の要否が検討され、一時保護が相当であると判断されました。その後、児童養護施設に入所することができました」
入所者から「ガリ勉」と馬鹿にされる空気が
前述の通り、児童養護施設出身者のなかで大学進学が叶う人はそう多いとは言えない。まして東京外国語大学は説明不要の名門国立大学であり、狭き門。だがそれだけに、大学進学を志すあお氏の施設時代は孤独でもあったという。 「勉強は昔から好きでした。単純にわからないことがわかるようになるのは楽しいですよね。幼稚園の頃から、店の看板や電柱の広告に書いてある漢字のほとんどは読めていたと思います。漢字検定2級(高卒程度)は小学生で取得しました。 しかし、虐待によって複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまい、児童養護施設に入所するころには幻覚や幻聴の症状もありました。施設はそうした高年の児童に対するケアをあまり想定しておらず、たとえば私が服用すべき薬も『幼児さんを寝かせてからね』と言われたまま放置されるなど、重大に捉えているようには思えませんでした。 加えて、勉強をしていることを同じ入所者から『ガリ勉』と馬鹿にされる空気があり、さすがに職員はそうした言葉を使わないものの、冷笑的ではありました。施設内では勉強が難しいので近隣の図書館に自習に行こうと思っても、『一週間前に外出申請してください』というようにやけに事務的で、大学進学を目指すうえで必ずしも良い環境ではなかったように感じます」