“極端に低い”児童養護施設からの大学進学率「ガリ勉と馬鹿にされる空気が」当事者が感じた”見えない壁”
「あなたが東大に入れば…」職員の言葉に違和感
児童養護施設がそもそも大学進学を前提としていない、という空気感は、たとえばこんな場面でも感じたという。 「同じ施設入所者のなかに、1つ下の学年の子がいました。その子はとても向学心があり、努力家でしたが、やはり虐待家庭の出身だったこともあって学力は高くはありませんでした。私がもっとも嫌悪したのは、職員が『あなたの成績では大学進学は無理』などとはっきり言うことです。一方で、成績が良かった私に対しては『あなたが東大に入れば、社会的養護出身者の希望になる』というような言葉をかけてくるのです。 私は、大学進学とは学問を修めるための選択肢であって、その先の就職率の良さや給料の良さだけのためのものではないと考えています。したがって、現時点で学力が低かったとしても、学びたい気持ちがある子に対して冷たく突き放すのは、児童福祉の本質から外れていると思います」
「私立大に給付型の奨学金がある」と後から知った
あお氏がさらに気になったのは、社会的養護出身者の大学進学を本気で後押ししようとする意識の欠如だという。 「私は前期入試で受けた東京大学に落ち、後期入試で受けた東京外国語大学に進学しました。滑り止めで受けた早稲田大学も合格していましたが、私学は経済的に無理だと諦めていました。しかし後から調べてみると、早稲田大学をはじめとする名門私立大学にも、給付型の奨学金があるのです。 少なくとも私は受験に際して、通っていた進学校の受験指導の先生から案内を受けたこともありませんでしたし、施設職員にもそうした知識はありませんでした。本当に社会的養護出身の子どもを大学で学ばせる気があるならば、少なくともその年代にかかわるプロフェッショナルたちは奨学金などに精通してほしいと思います」
大学合格後、実家に戻されてしまう
東京外国語大学へ入学したあお氏は、好きな語学を存分に学べる環境を手に入れた。だが必ずしも前途洋々のキャンパスライフだったとは言い難い。 「児童養護施設にいられる年齢は18歳までですが、私の場合、アフターケアにつなげてもらうことができず、実家へ戻されました。東京外大の学生寮に入ることを希望していたものの、『厳正な抽選』によって漏れてしまったことが原因です。当時、幻聴などが続いていた私は、児童養護施設から『独り暮しは難しい』と判断されて実家へ移されたのです。その頃には父親が同じ居住区の別のマンションを借りていたため、顔を合わせることはありませんでした。1ヶ月後、無事に別の学生寮を借りることが決まって私は実家を出ていきました。 東京外大での学びは刺激的で楽しかったのですが、問題は思わぬところで起きました。外国語の授業でよくある、『あなたの家族を◯◯語で紹介してみよう!』という演習で精神的に参ってしまい、気がつくと教科書を真っ黒に塗りつぶして叫びながら教室を出ていたのです」