会社はディスコで、デスクはブース。箱DJ、廣田征己さん。
客が途絶えない限り休憩はないが、廣田さんにとっての休憩時間は得意分野の’70年代後半~’80年代前半のダンスクラシックナンバーを選曲しているときらしい。ディスコのド定番曲が多いから盛り上がりやすいことに加えて、自身も何も考えずに繋ぎができるほど身体にその業が染みついているからだ。トイレに行きたくなっても、お決まりのソングが二曲あるから大丈夫。1977年発マービン・ゲイの「黒い夜」を頭出し(※繋がず最初から流す)すれば11分52秒。1980年発クルセイダースの「ストリートライフ」は11分19秒。この間に戻り、また何事もなかったかのようにDJプレイが再開する。
箱DJが長丁場であることがわかったが、音源は底をつかないのだろうか……。そもそも廣田さんのようなアナログ派(レコードを用いるDJ)は、基本的に都度現場にわざわざ音源を持ち込まなければいけないから持っていけるレコードに限りが出てしまう。しかし廣田さんは、音源を店にストックしておくことが可能。現場のレコードラックが家のレコードラックのようなものだから、音源のキャパがかなり幅広いわけだ。枚数はざっくり1000枚以上あるらしく、客のリクエストナンバーに臨機応変に対応できることも大きなメリットとなる。ちなみにディスコはリクエストのカルチャーが盛んで、ここ『マジック』でもリクエストカードが各席に用意されている。
「ディスコ全盛期の箱DJはレコードを買う費用が店から出ていたと聞きますが、あの頃とは違いますし、ボクは自腹(笑)。出勤前にお客さんの顔を浮かべながら、ちょろっとレコード屋に寄って買っています。自分の趣味のものも買いますが、大抵はリクエストでなかったマニアックなものを手に入れる。よくプレイする盤なんかはケースが破れまくっているのですが、LPって結構強いので、買い替えるみたいなことは滅多にないんですよ」。
料理人が食材を買いだすがごとく、常に顧客を思いながらレコードを買う廣田さんの姿勢はまさに職人。「まあ、仕事でやっているから厳しいことのほうが多かったですよ。若い時はリクエストが邪魔してかけたい曲がかけられない、みたいなのがありましたし。今は全然ないですよ(笑)とにかくいかに来たお客さんに楽しんでもらえるかなので、自分はなんでもいい」。