パラリンピックへの出場限られる知的障害の選手:パリ卓球「金」和田選手の思いとは
参加人数、クラスの上限も影響
もう一つが、参加選手の数の問題だ。IPCは2001年、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会を統合していくことに合意し、パラリンピックのクラス分けの削減、参加人数の上限、競技数の上限、種目数の削減などが決まった。これは、パラリンピックが競技性をより高める方向に変化していくことを意味した。 知的障害者の参加人数が少ない01年の時点でIOCと合意したことで、パラリンピックへの門戸はさらに狭くなった。知的障害のクラスを増やせば他の競技や種目を削減せざるをえない。そのジレンマがあるため、知的障害者の参加者数を増やしにくい状態が続いている。
ダウン症クラス求める声も
事実上、パラリンピック参加が難しい、と言っても良いのがダウン症のアスリートだ。ダウン症の人は、知的障害に加えて身体障害も併発していることが多い。身体障害のない知的障害者に比べてスポーツをするには不利であり、新クラスの創設を求める声は根強い。 2021年の東京大会では、ダウン症のミケル・ガルシアの両親が10万人分の署名を集めて嘆願書を作成したことが報道された。 ダウン症や自閉症の選手も参加するVirtusグローバルゲームズでは、パラリンピックより細かくクラス分けしていて、パラリンピックでは知的障害クラスがない自転車競技や柔道、空手なども実施している。ほかにも、競技力の向上よりもスポーツを楽しむことに重きを置いているスペシャルオリンピックスのような大会もある。ただ、注目度が高いパラリンピックへの参加の道を求める声は強くなる一方だ。
「うれしい。でも競技数が少ない」
日本全体の身体障害者は436万人、知的障害者は109万人いることを考えると、知的障害クラスで出場した選手が日本選手団のうち6.6%しかいない現状は、競技へのアクセスがまだ不十分と言わざるを得ない。 和田選手は、パラリンピックに出場する知的障害者の数が少ないことを問われると、「(金メダルを取れたことは)すごくうれしいのですが、競技数はまだ少ないと思うので、もう少し幅が広がれば」と語った。 水泳で銅メダルを獲得した山口尚秀選手は、英国に遠征に行った時に「日本では(知的障害者を)『かわいそう。障害があるからできないよね』という勝手な先入観を押し付けられがち。それよりも『まず、やってみよう』という気持ちが大切だと学んだ」という。 スポーツを通じて自分自身が変化し、社会が知的障害者を見る目も変わっていく。その意味では、パラリンピックで知的障害のクラスがあることの意味は大きい。アンドリュー・パーソンズ会長はパリ大会を「今後のベンチマーク(基準)になる」と高く評価した。IPCは、知的障害者の参加者が増えるように検討しているとの報道もある。今後のパラリンピックの発展を考える上でも、知的障害者を大会にどうやってインクルージョン(包摂)していくのか。次のロサンゼルス大会に向けての課題となっている。 取材、文:西岡千史、撮影:越智貴雄
【Profile】
西岡 千史 1979年、高知県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。「THE JOURNAL」「週刊朝日」「AERA dot.」編集部などを経て、現在はフリーランス記者。 越智 貴雄 1979年大阪府生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。2000年のシドニー・パラリンピックからパラスポーツの取材を始め、パラリンピックは12大会撮影取材。2004年にパラスポーツ専門メディア「カンパラプレス」を設立。写真集出版、新聞連載に加え、義足女性のファッションショーや写真展なども主催してきた。著書「チェンジ! パラアスリートを撮り続けてぼくの世界は変わった」。