ヒオカ「ドラマで〈恋愛しない人〉が〈恋愛体質の親の被害者〉や〈偏屈な人〉と描かれるのはなぜなのか」
◆恋愛にトラウマティックな体験があるという筋書き このドラマには、他にもフェミニズム要素が随所に散りばめられていたり、問題提起されているドラマだと思う。しかし、ひとつ、どうしてもひっかかることがあった。 涼の母親・町田満美(坂井真紀)は恋愛体質で、常に男性に依存しているタイプ。しかも、国際ロマンス詐欺に引っかかり、涼が妹のために消費者金融から借りたお金を、相手の男性に送金するために盗んで姿を消してしまうのだ。 涼が、母親に激昂するシーンがある。 「ママみたいに男がいないと生きていけない惨めな生き方は私はいっちばんいや」 このシーンを見て、正直すごくがっかりした。 最近では、恋愛や結婚、性のあり方の多様性を尊重しようという動きも広まり、もれなくドラマにもその潮流は来ており、恋愛しない人が登場するドラマも増えた。 しかし、毎回引っかかることがある。 恋愛しない人が、恋多き母親に振り回され、トラウマティックな体験があって、恋愛嫌いになってしまった、という筋書きが少なからずあるのだ。 『恋なんて、本気でやってどうするの?』というドラマでは、主人公が恋をしないと意固地になっており、周囲から高齢処女、早くそこら辺の男と寝ろ、とそそのかされ、結果恋愛に溺れていくというストーリーだった。 そもそも、恋愛しない、というポリシーを、恋に溺れる前振りに使うのが本当に無神経だと感じた。もちろんそういう人も実際いるだろうが、恋をしない人たちは、恋愛しないと打ち明けても、「まだ出会ってないだけだよ」「これから好きな人に出会ったら変わるよ」という言葉をよくかけられる。善意なのかもしれないが、恋愛しないのは人として完全ではない、と言われているような気がする。恋愛しないままでいい、このままでいいと受け止めて欲しいのだ。
◆恋をしない=こだわりが強い変りものという偏見 『恋なんて、本気でやってどうするの?』の主人公は、母親が恋愛体質で、男性に依存しなければ生きられない人だった。そんな母親に振り回されて育った主人公は、その苦い幼少期の体験から、母親を反面教師として、男性に頼らず、恋をせずに生きていくと心に誓うようになった。本来恋愛するはずが、母親のせいでできなくなった、という筋書きなのだ。恋愛しない人は、なにか不幸な理由があってそうなってしまったに違いない、だから運命の出会いがあれば傷が癒えて恋愛できるようになる。 そんな風に、恋愛しない人になにかトラウマティックな理由があると決めつけるのは、恋をするマジョリティの視点でしかない。 若草物語では、結婚したくないことに説明を求められることに主人公が疑問を呈すシーンがあるのに、なぜ恋愛をしないことを恋愛体質の母親に振り回されたというトラウマティックなものと意味づけしてしまうのだろう。マイノリティが説明が求められることに疑問を持つならば、恋愛しないことにも理由はない、というのを貫いてほしかった。これでは、恋愛しない人はなにかトラウマティックなことがあって恋愛にネガティブになっているというスティグマを補強するだけだ。 恋愛しないことに、理由はいらないのだ。恋愛至上主義に一石を投じるはずのドラマが、恋愛する側(マジョリティ)の視点から見る恋をしない人の描き方を踏襲しているのがなんとも残念だ。 また、もう一つ気になるのは、恋しない人が、こだわりが強かったり、偏屈な人、みたいに描かれることだ。アロマンティックアセクシャルの男女の同居を描く『恋せぬふたり』では、恋をしない主人公が、偏屈で意固地に描かれる場面があった。『恋なんて、本気でやってどうするの?』も『若草物語』も、恋をしない人が、変わり者、意固地というニュアンスが、オーバーに描かれているのが引っかかる。恋する側はこだわりがあるとは思われないのに、恋をしないだけで、こだわりが強いというイメージを持たれやすいのは、やはり恋をする人がマジョリティで、マジョリティの常識から外れたらこだわりが強い変りもの、という偏見を持たれるからだろう。 恋しない人が、トラウマティックに描かれることもなく、恋をしないという意思が恋に溺れる前振りに使われることなく、意固地に描かれることもない。ただそこに存在する。そんな風に描かれる作品が増えてくれたらいいなと思う。
ヒオカ
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