半導体の王者から“劣等生”へ…インテルCEO解任が「日本の半導体産業の再興」を予感させるワケ
● 日本の半導体産業が再興する重要なチャンス 24年7~9月期まで、インテルは3四半期連続で最終赤字に陥っている。競争力の低下による単価下落、汎用型チップの過剰生産設備の減損、リストラ費用の増加などが響いた。 ゲルシンガー氏は、ビジネスモデルをうまく転換できず改革半ばで解任された。垂直統合型モデルにこだわり、インテルはスマホ、AIなど先端分野の変化に遅れた。結果的に、人員削減、資産売却などで収益を捻出せざるを得ない状況に陥っている。 インテルの成長と凋落の歴史は、多くの企業にとって重要な参考になるだろう。日米半導体協定や、グローバル化の加速による新興国企業の製造技術キャッチアップなどで、1990年代以降、垂直統合型の事業運営体制を重視したわが国総合電機メーカーは半導体市場で競争力を失った。 半導体の製造には、素材や製造装置、超純水など多種多様な製造技術が欠かせない。その分野で、わが国には国際的な競争力を持つ企業が残っている。TSMCだけでなく米マイクロン・テクノロジーやウエスタンデジタル、韓国のSKハイニックスなどの大手半導体メーカーが、わが国での生産能力増強を重視している。 水平分業は、わが国の企業が精密な製造技術を磨き、持続的な成長を目指す重要な機会になるだろう。半導体部材などの企業にとって、世界のソフトウエア開発スピードの向上に習熟し、先々の需要に見合った素材などを供給する体制を整備する必要性は高まる。 わが国の半導体政策も変化し始めた。政府は24年度補正予算で、ラピダスへの支援を拡充する方針だ。戦略物資である半導体の製造能力は、国力に直結する。それを民間企業のリスクテイク能力のみに委ねることのないように、という判断だろう。 ラピダスが、内外の企業と連携し先端チップの生産能力を発揮する。その上で、海外のAIスタートアップ企業やIT有力企業が開発したチップの受託製造が軌道に乗れば、関連産業の裾野は広がるはずだ。かつて世界最強だったインテルが乗り遅れた水平分業の波は、わが国の半導体産業が再興する重要な機会になり得る。
真壁昭夫