新NISAで運用する「年金繰り上げ投資」は本当に儲かるのか?「お金のプロ」も驚いた「意外な検証結果」
どちらのパターンでも「利回りの損益分岐点」は…
今回の、利回りの損益分岐点の検証結果を整理すると、このようになります。 (1)60歳繰り上げ+新NISA投資 vs 65歳受給:利回り1.65% (2)60歳繰り上げ+新NISA投資 vs 70歳繰り下げ受給:利回り1.99% どちらのパターンでも、60歳繰り上げ受給+新NISA運用で必要な利回りは2%以下となりました。参考までに、米国のS&P500の過去30年間の1年当たり利回り平均は約10%です。これは、円安の影響を除いたドルベースでの利回りです。米国や全世界を中心に運用していれば、2%は十分に可能な利回りといえるかもしれません。 なお、前提条件が違えば、検証結果は異なります。年金収入以外の所得の有無、お住いの地域、家族構成、他の所得控除の有無、想定する寿命などによって、利回りの損益分岐点は個人ごとに異なることにご留意ください。
課題点は、投資メリットが大きくないこととインフレ
60歳繰り上げ受給+新NISA投資運用で利回りの損益分岐点は2%程度と意外と低く、達成できそうなレベルであることはわかりましたが、一方で、今回の検証で2点ほど課題点も見えてきました。 まず、1つ目の課題点は、利回りがあがっても、得をする金額があまり増えないことです。 さきほどのパターン(1)「60歳繰り上げ+新NISA投資 vs 65歳受給」の検証において、もし運用利回り3%であれば、65歳から90歳までの25年間で約36万7千円ずつ取り崩すことができ、65歳受給より毎年約6万円余裕が生まれます。月額では約5,000円です。投資運用のリスクを負っている割には、そこまでメリットのある大きな金額でないかもしれません。もし運用利回り5%であれば、毎年約16万7千円の余裕が生まれ、月額では約1万4千円です。このくらいあると金額のメリットを感じやすいですが、5%運用を継続するのはかなり大変です(【図5】参照)。
あくまで選択肢の1つ
次に、2つ目の課題点はインフレです。 インフレの状況では、年金支給額もインフレに合わせて上昇しますので、物価上昇率以上に利回りを出さないと、そもそも損をしてしまいます。パターン(1)であれば、損益分岐点の利回り1.65%に物価上昇率をプラスした分の利回りを出す必要があります。仮に物価上昇率が3%であれば、利回り4.65%が必要です。実際の計算はやや異なり、もう少し必要な利回りが高くなります。この利回りを継続して出し続けるのはけっこう大変といえます。 * * * 検証の結果、60歳繰り上げ受給+新NISA運用の利回りの損益分岐点は2%程度と意外と低い値であることがわかりました。 一方で、運用利回りをあげても、お得になる金額はあまり多くありません。月額あたり数千円から1万円程度の金額のために、あえてリスクを犯し時間をかけて投資をするのかは検討が必要でしょう。 また、インフレも非常に大きな問題点です。現在日本で発生しているインフレは、輸入物価が高騰したことによる海外起因のコストプッシュインフレですので、国内の金利も上がらず難しい状況です。ただし、今の物価上昇がずっと続くかどうかはわからず、またデフレに逆戻りすることも考えられます。デフレの場合は、支給される年金は徐々に減らされていきますので、 逆に、繰り上げで早めに年金をもらうこと自体が少し有利になります。 利回りの損益分岐点は個人ごとの状況によって異なりますし、将来の経済予測も重要な要素になってきます。年金繰り上げ+新NISA投資は、あくまでも一つの選択肢と考え、いろいろな観点から、年金の受給方法をご検討されるのがよいでしょう。
服部 貞昭(CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)/エファタ株式会社 取締役)