アーサーヘイズ、中央銀行の利下げはビットコインにとっては追い風と考察
利下げでビットコイン急騰と予想
暗号資産(仮想通貨)取引所ビットメックス(BitMEX)の共同創業者で元CEOのアーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏は、中央銀行による最近の利下げが招くインフレが、ビットコイン(BTC)にとっては好材料との見方を示している。同氏が8月27日に公開したブログ記事「シュガーハイ(Sugar High)」にて考察した。 同ブログでヘイズ氏は、同氏の愛するスキーでの事象を米経済の近況に当てはめながら、米FRB議長のジェローム・パウエル(Jay Powell)氏の利下げが与える米経済への影響やそれに連動するビットコインの値動きについて解説している。 ヘイズ氏は、スキーにおいては、非常に大きな消費エネルギーのカバーや血糖値管理のために「お菓子(Snacks)」や「真の食べ物(Real food)」を摂取するとし、一日中パフォーマンスを維持するためには、定期的な糖分補給と、燃焼時間の長い 「真の食べもの」の摂取を組み合わせる必要があるとした。同氏にとって「お金の値段」は、手っ取り早くブドウ糖を補給するために摂取する「お菓子」に該当し、「お金の量」は、ゆっくりと長く燃焼される「真の食べ物」のようなものだと例え、お金の価格と量の相対的な重要性についての議論を行っている。 ●円高に対抗でFRBはバランスシート拡大か まずはじめにヘイズ氏は、円高が引き金となり、米国をはじめとする複数の国々が緩和やバランスシートの拡大を行うと考察。 今年8月、日銀追加利上げとFRBの9月利下げ示唆後、米景気先行き不安が浮上し急激な円高が発生。世界の金融市場に混乱をもたらした。 ヘイズ氏は「世界の3大経済大国の利下げが円高対自国通貨安につながれば、市場はネガティブな反応を示す」とし、「プラス(利下げ)勢力とマイナス(円高)勢力の戦い」になると指摘。「円建てで調達されている世界の金融資産の額が数十兆ドルであることを考えると、円高による円キャリートレードの急激な巻き戻しというネガティブな市場の反応は、米ドル、英ポンド、ユーロの小幅な利下げがもたらす利益を圧倒する」と予想した。 さらにヘイズ氏は、「FRB、BOE、ECBは、円高による悪影響に対抗するために、緩和やバランスシートの拡大を進んで行わなければならないと認識している」とし、「米国経済は利下げに飢えていないが、パウエルはいずれにせよシュガーハイを提供するだろう」と予想。金融当局は法定通貨の株価が乱れることに過敏に反応するため、FRBと米財務省は円高の影響に対抗するため、近いうちに「FRBのバランスシート拡大」という「真の食事」を差し出すとヘイズ氏はにらんでいる。 ●政治と経済の関係からリスク資産の価格上昇を予想 またヘイズ氏は、パウエル議長が利下げを正当化した理由と、リスク資産価格の上昇に対する同氏の確証を高めた出来事についても触れた。 バイデン米大統領の労働統計局(BLS)は、8月23日、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれたカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(いわゆるジャクソン・ホール会議)の数日前に雇用統計の80万人分もの下方修正を発表した。 その後のジャクソン・ホール会議にてパウエル議長は、主要政策金利を引き下げる時が来たと発言した。「パウエル議長は利下げを労働市場の悪化のせいにすることもできたはずだが、それを使わなかった。FRBが9月に利下げを開始すると発表した今、唯一の問題は最初の利下げの規模だ」とヘイズ氏は指摘している。 またヘイズ氏は「政治が経済に先行するとき、私は自分の予測に自信を持つようになる。彼らは再選されるためなら、経済状況にかかわらず必要なことは何でもする。つまり、何が起ころうと、現職の民主党は11月の選挙までにあらゆる金融手段を駆使して株価上昇を確実にする」と述べた。 ●円高が止まらなければドルが刷られるシナリオ さらにヘイズ氏は「パウエル議長が9月の利下げを示唆した後、円高が進んだ」とし、「円相場が急騰した場合、トレーダーが円キャリートレードのポジションの巻き戻しを再開すれば、FRBの利下げシュガーハイは短命に終わるかもしれない。様々な金融市場の下落を止めるためにさらなる利下げを行えば、ドル円金利差の縮小ペースを加速させるだけ」と続けた。また、市場は出血を食い止めるために、FRBのバランスシートの拡大によって供給される印刷貨幣という形のお金の刷り増しを必要としているとヘイズ氏は述べている。 円高が加速した場合、まずは「量的引き締め(QT)プログラムの停止」として、FRBがポートフォリオの満期を迎える債券の現金を米国債や住宅ローン担保証券に再投資することが発表されるとヘイズ氏は予想。 それでも円高が止まらなければ、「FRBは中央銀行の流動性スワップやQE(量的緩和策)、マネーの増刷再開に踏み切る」とし、「その背後で財務省は、国債を売り増し、財務省の一般勘定を切り崩し、ドルの流動性を増やす」と指摘。もしドル円がすぐに下値140円を突破するようなことがあれば、法定通貨金融市場が存在するために必要なお金の量を提供するため、躊躇なく通貨増刷を再開するだろうと予想とした。 ●法定通貨の高い流動性が暗号資産保有者の好機に ヘイズ氏はこういった法定通貨の「良好な」流動性状況が、暗号資産保有者にとっても好機となると指摘。追い風になっている事象として次のことを挙げた。 まず1つ目に「FRBを筆頭に世界の中央銀行が貨幣価格を引き下げている現状がある」こと。「そのためFRBは金利を引き下げ、BOEとECBは今後の会合でも利下げの続行が予想される」としている。 さらに「イエレン議長が、今から年末までに2710億ドルの国庫短期証券を発行し、300億ドルの自社株買いを実施すると発表した」こと。これにより、金融市場に3,010億ドルのドル流動性が追加されることになるとヘイズ氏は指摘。さらにヘイズ氏は米国財務省の国庫短期証券には7,400億ドルが残っていることにも言及している。 また「日銀は2024年7月31日の会合で0.15%の利上げを行った後、円高のペースに怯え、今後の利上げは市場の状況を考慮すると公言した」とヘイズ氏は指摘。これは「市場が下落すると思えば、利上げはしない」という婉曲表現だと述べている。 ヘイズ氏は自身がクリプト(ブロックチェーン・暗号資産の総称)の専門家であるため株が上がるかどうかはわからないし、FRBが利下げしたことで株式市場が下落した過去やFRBの利下げがアメリカをはじめ先進国市場の景気後退の先行指標になると懸念する声も理解するとしたが、「インフレ率が目標を上回り、成長率も堅調なときにFRBが利下げに踏み切ったとしたら、実際に米国が景気後退に陥ったときにFRBが何をするか想像してみてほしい。FRBはお金を増刷しマネーサプライ(資金流通量)を劇的に増やすだろう。それはインフレを招き、ある種の企業にとっては不利になるかもしれない。しかし、ビットコインのように供給が有限な資産にとっては、光の速さで月に旅立つようなものだ!」と述べ、インフレヘッジの代表格であるビットコインの価格上昇を予想している。
髙橋知里(幻冬舎 あたらしい経済)