ドナルド・トランプが米国民に“大人気”なワケ【経済の専門家が解説】
トランプ再選の場合、打ち出される「政策」は…
「対中」「対ディープステイト」政策が急速に進む それでは時期尚早ではあるがトランプ氏が大統領になったとして、どのような政策が打ち出されるのか、考えてみよう。 選挙用のレトリックと真に追及される政策を峻別する必要がある。まず2つの敵に対する戦いは貫徹されるのではないか。米国の雇用だけでなく覇権を奪おうとする中国に対する姿勢はいちだんと強まるだろう。 中国からの輸入関税を60%に引き上げること、中国最恵国待遇の撤廃などの政策により、対中デカップリングはさらに急速に進むだろう。 これまでは先端半導体等一部の高度・軍事技術に限られていた高い障壁をより多くの分野に広げ中国依存度はさらに急低下するだろう。また「質の悪い官僚たちを排除し、腐敗したワシントンに民主主義を取り戻すこと」も実施される可能性が高い。 いままで4,000人程度に限られていた政治任用制度の適用範囲を5万人に広げ中堅官僚を大きく入れ替えることを示唆している。 トランプの意にそぐわない官僚の魔女狩りとの批判が高まり、メディアやアカデミズムを巻き込んで激しい対立を引き起こすかもしれない。 いま起きている激烈なトランプ批判はその前哨戦かもしれない。かつてのマッカーシズム、レッド・パージなど、米国は時としてラディカルな思想迫害をすることがある。 またパリ協定からの離脱、EV補助金の縮小や停止、パイプライン建設促進等バイデン政権が推し進めた環境政策を換骨奪胎することも間違いないだろう。さらに国境管理の強化、不法移民対策の強化も進めるだろう。 金融資本、資本主義擁護の姿勢を鮮明に その一方で選挙レトリックを変えつつある政策もある。中絶禁止やウクライナ戦争支援反対などの主張は大きくトーンを緩め始めている。また口先では反国際金融資本といいつつウォール街の利益を代弁し、株価フレンドリーの政策をとり続けそうなのは、第1期のトランプ政権時と変わらないだろう。 前回はドット・フランク法の改正、ボルカールールなどの金融規制の緩和を実施したが、バイデン政権が導入した自社株買い課税の撤廃など、反市場政策をひっこめるかもしれない。結局トランプ氏は金融資本、ウォール街利益を代弁し資本主義を擁護する立場を鮮明にするだろう。 ドル安論者かと思われたが…再選の場合「ドル高容認」か 貿易赤字に焦点を絞っており前回の大統領就任時には、ドル安に言及したこともあり、トランプ氏はドル安論者かと思われているが、むしろドル高容認の姿勢を打ち出すのではないか。 トランプ政権は保護主義の手段として高率関税を打ち出している。すでに一律10%輸入関税、対中では60%の関税設定を提起しており、輸入関税にドル安が加われば米国の輸入物価が急上昇することは必至、だかそれは考え難い。 むしろ高関税とドル高政策を併用してくるのではないか。米国産業の防御には関税政策を割り当て、米国が圧倒的に強く独占しているAI、デジタルの分野では強いドルを使って攻勢を強める、という選択が合理的である。 以上のような市場フレンドリー政策が想定されるうえ、第1期トランプ政権を担ったロバート・ライトハイザー元USR代表、ピーター・ナバロ元大統領補佐官、ラリー・クドロー元国家経済会議(NEC)議長等が政策準備に参画しており、経済通商政策の一貫性はほぼ確かであろう。 2016年と同様、事前の懸念とは裏腹に、株式市場は「もしトラ」を歓迎する可能性が高いと思われる。 武者 陵司 株式会社武者リサーチ 代表
武者 陵司