【ヤマハRZV500R(1984)試乗】2スト500cc!世界GPマシン「YZR500」レプリカを21世紀に走らせる
ヤマハ RZV500Rの走りとは…「官能的に荒ぶる500ccV4は、柔軟性と突き抜ける高回転を併せ持つ」
意外なほど軽いキックでの一発始動で目覚めた2ストV4サウンドは、期待どおりに荒ぶった。換装されたサイレンサーの放つ迫力ある音量も手伝い、全身が身震いする。 キーン! キンキンバラバラバラ………クォーンウォンウォン、ボロンボロン………。スロットルをあおれば、アイドリングではバラけていたサウンドが一気にかき集まる。前列2気筒をクランク室リード、後列にピストンリードバルブを採用し「まるでTZRとRZを合体させたような……」と、当時の試乗記によく出ていた記述が、なるほどと納得できる。 クランクシャフトは2本で、前・後列の各2気筒は50度V配置。点火は、対角線上の2気筒ずつが同時爆発。前後クランクの中央に、ギヤ駆動の1軸2ウエイトのバランサーを付けて振動を低減する代わり、エンジンはリジッドマウントである。 意外に重くないクラッチを切り、1速ヘシフト。燃費性への配慮か、発進即ウイリーという事態防止のためか、1速はややギヤ比が高めの印象だ。その辺でクラッチミートでの気遣いはあるものの、そこからスルスルと車体が動き出せば、この2ストV4が低速からかなり柔軟なトルクを持つことが分かる。2000rpm台でも中速ギヤに入れておけば難なく巡航可能だし、トップ6速でも3000rpm程度回っていればギクシャク感は皆無でジワッっと実用加速が可能。 「パワーバンドに入ってからの怒とうの加速感と引き換えに低速は乗りこなせないほどピーキー」とか、「あまりに低回転ばかりで走っているとプラグがカブってしまう」、といったじゃじゃ馬2ストマシン的な表現は、ひょっとしてこのマシンには当てはまらないのか? と思いながら、40~60km/hの速度で一般道を流す。そんなことを考える余裕があるほど、低速域でのRZV500Rはストレスがなく乗りやすいのだ。 ただし、それが本領でないことは当然エンジンが主張してくる。4000rpmに上げると加速はさらに波に乗り、そこから5000、6000と開け続けて7000rpmを超えると、ちょっと目玉が飛び出るほどの加速感が始まり、回転計の針は一気に高回転を目指す。この鋭い回転上昇が、底知れぬパワーをつかの間感じさせるが、レッドゾーンはすぐ目の前。気をつけないといけない。 平成元(1989)年にワンオーナーの中古車を入手後、国内仕様だった同車は、横浜にある野口モータースの手で輸出仕様に仕立てられたという。そのパワーは、低回転では柔軟性に、7000~8000rpmからは鋭さに驚かされ覚醒させられはするが、比較すれば今のリッタースーパースポーツの柔軟さにも、鋭さにも及ばない。なのに楽しいと思うのは、低回転域でのバラつきと、中回転へ向かうほどに収束して力強く集まるパワー感、そして高回転へ向かう鋭さという3つの表情を味わう過程の面白さだろうか。 国産各メーカーがこうした過渡特性に磨きをかけ、また現在は4サイクルを主力に全域でスムーズに回るエンジンに仕上げようと奮闘努力しているのを尻目に、ベテランライダーの多くは、荒ぶる特性に憧憬し充実感を覚えるとは皮肉なものだが、その最たるもののひとつが、ぜいたくな新技術を惜しみなく投入された大排気量2サイクルレプリカだったのではなかろうか? ワインディングに入ると、足まわりを17インチワイドサイズに改められ、現代のタイヤを履くRZV500Rは気持ちよく自然に流せた。だが、これはオーナーが長年かわいがり、熟成させた成果だろう。一方標準の足まわりでは、こうはいかなかったはずだ。もっとコーナリングでの立ちは強く、路面からのインフォメーションも少なく、しかし、高回転に向かうほどに荒ぶっていくパワーと必死に格闘したかもしれない。 華やかな存在感を放ったRZV500Rだが、同車を含めた大排気量2ストレプリカは長く続かなかった。乗りやすさで4スト大排気量車に比肩するのは難しく、また排出ガス低減や燃費性でもアドバンテージは得にくい。かくして2ストレプリカブームは250cクラスに集約され、2ストならではの荒ぶるエンジン特性は洗練され、乗りやすい車体に進化して峠小僧が簡単にヒザを擦れる2ストレプリカモデルが投入されていく。 だが、そうした真っ当な進化の半面、大排気量2サイクルレプリカにあった、レーサー直系を感じさせる憧憬と畏怖、荒々しさの記憶が色褪せることはない。