忙しい社会人「一人では学習意欲が湧かない…」 学びのコミュニティを成功させる7原則
学びのコミュニティは個人と組織をどう変える?
――学びのコミュニティはどのような学習に適しているのでしょうか。 学びのコミュニティが得意としている学習スタイルは四つあります。一つ目は、コミュニティに参加するという行為やプロセスを通じて知識やスキルを得る「熟達学習」です。たとえば入りたての頃は様子をうかがいながらメモを取るなどしていたのが、周りの学習者との相互作用を通じて理解を深め、段階を踏んでプレゼンターになるなどの変化をいいます。 二つ目は、複眼的学習です。普段所属しているチームや組織とは異なるコミュニティに身を置くことで、チームや自身を相対化・客観視したり、学びと実態の相違点を見いだしたりする学びのことです。三つ目は、越境学習。さまざまな境界を越えて人と出会うことで得られる学びのことです。学びのコミュニティが仕事とは違った構成であるからこそ、得られる刺激があります。そして四つ目は、循環的学習です。学習者が職場と実践共同体を行き来することで、効率よく知識やスキルを獲得する学びで、知見と課題を相互にもたらすことになります。 ――学びのコミュニティが企業や組織従業員にもたらすメリットを教えてください。 学びのコミュニティが得意とする四つの学習スタイルを踏まえると、企業における学びのコミュニティのメリットを10個挙げることができます。 (1)学びに関心のある人を集めることができる 組織で働く人たち全員が、学ぶことに意欲的というわけではありません。学びへの関心や主体性を底上げしたい場合は、そうした人たちが集まる場をつくることが重要です。 (2)学びを促進できる お互いに意見を交わすという集団での学習の効果を享受しながら、学びを深めていくことができます。 (3)低次学習と高次学習の両方を促す 経営学では、知識や技能を少しずつ身につけていくことを低次学習、学習者本人の価値観やものの見方そのものを変えていくことを高次学習と呼びます。その両方を、実践共同体ではカバーできます。 学びのコミュニティでさまざまな意見や考えに触れながら学ぶことで、これまでの人生経験で培った価値観や信念が変わることがあります。そうして所属するチームや業務に対する見方、メンバーとの接し方が変わっていく、会議の場での意見の質が変化する、といった変容が見られることでしょう。 (4)所属する組織に影響を与えることができる 先の説明のとおり、学習者の変容が起こります。学びのコミュニティで得たナレッジやスキルを生かし、所属する組織での振る舞いが変わればメンバーにも刺激をもたらします。 (5)参加者間の相互作用が促進される 特定のテーマについて一定の活動に取り組むことで、参加者同士に関係性が築かれ、学習にも良い作用をもたらします。 (6)学びのモチベーションが高まる 学びのコミュニティは、一人で学ぶよりも学びの意欲を高めやすい側面があります。「学習動機の二要因モデル」という六つの学習動機のうち、関係志向を高める作用を持つためです。 他者がいて、互いに励まし合い、学び方を学び合うことを通じ、「みんなと一緒なら楽しい」と思えることで、「勉強はつまらないもの」という観念を変えることができるのです。 (7)部署横断、越境を促進する 越境というと、完成したコミュニティに、一人がポツンと入るケースが多いと思います。しかし学びのコミュニティは、集まってくるメンバー全員が越境者です。それゆえ互いに気を遣い合い、絆を深め合うことができます。 (8)学びのコミュニティと組織の間に学びのループが生まれる まさに四つの学習スタイルの、循環的学習をさします。実践共同体で得た学びを自組織に持ち帰り、また組織の課題を実践共同体に持ち寄り、相互に学習を深めていく。そのやり取りが組織と実践共同体のスパイラルアップにつながっていきます。 (9)問題解決に向けて、多様な人たちと協働できる 学びのコミュニティは、部署や職場、役職、年代を越えたコミュニティが原則です。バックグラウンドの異なる人たちで一つのテーマについて議論し、学び合えるのは学びのコミュニティならではといえるでしょう。 (10)心理的な絆をつくり、参加者の居場所となることができる 所属部署とは違う、会社での居場所ですね。学びのコミュニティの理想は、用もないのに来てしまうという状態。サークル活動や部活の部室のようなイメージでしょうか。心理的な絆や居場所感は、学びにもよい効果をもたらします。 ――役職や所属を越えて、フラットで心理的安全性の高い状態をつくりやすいということでしょうか。 その通りです。ともに学ぶ中で、気兼ねなく話し合える環境はとても大切ですよね。仕事からいったん離れて、役職や上下関係は気にせずにコミュニケーションを図れる状態が理想です。 ただし仕事に関することをみんなで学ぶとなると、キャリアの影響は避けて通れません。大事なのは「何を学ぶか」をどう設定するかです。領域次第では、会社での上下関係が逆転する場合も起こり得ます。 例えば、私のゼミでの話になりますが、経営学について私は学生よりも、たくさんの知見を持ち合わせています。しかし学生世代のマーケティングについては、彼らのほうが豊富に体験しているわけです。たとえばSNSのBe Realは学生のほうが詳しいし、タイミーでのアルバイトも彼らは当事者です。私がゼミ生から教わることは数多くあります。 ――企業内で学びのコミュニティを取り入れることのメリットは何でしょうか。 企業が学んでほしいことと、個人が学びたいことのギャップを埋める効果があることです。会社が従業員に期待する学びと、従業員が関心や意欲を持つ学びがピッタリ重なるとは限りません。会社が提供する学びだけでは従業員にとってはやらされごとになってしまうし、個人の意向に任せきりにすると会社が期待する学びからかけ離れてしまうおそれがあります。 企業と個人の関心の間を埋めるようなテーマのコミュニティを設けることで、参加した個人は活動の中で興味関心の幅が広がり、企業が求めていた学習領域に関心が持てるようになります。企業が期待する学びと個人の学びの関心の橋渡しをしてくれるのです。