忙しい社会人「一人では学習意欲が湧かない…」 学びのコミュニティを成功させる7原則
コミュニティ運営のコツ 交流という「遊び」要素が学びを強くする
――学びのコミュニティを立ちあげ、運営し続ける秘訣(ひけつ)を教えてください。 まず重要なのは、学びのコミュニティはつくって終わりではない、ということです。そのうえで、実践共同体(学びのコミュニティ)に関して整理したのが「構築の7原則」です。 ■実践共同体(学びのコミュニティ)構築の7原則 1.進化を前提とした設計を行う 2.内部と外部のそれぞれの視点を取り入れる 3.さまざまなレベルの参加を奨励する 4.公と私それぞれのコミュニティ空間をつくる 5.価値に焦点を当てる 6.親近感と刺激を組み合わせる 7.コミュニティのリズムを生み出す 学びのコミュニティの始まりは小さくても構わないのですが、どのように発展していくか、ビジョンを描くことがまず大事です。また、領域に対する関心や参加の度合いもいろんなレイヤーの人がいて構いません。 ある程度活動が進んだら、自分たちの学びのコミュニティの価値を改めて考えます。このとき、このコミュニティに参加するとどのような得があるのか、会社にとってどういう得があるのかを言語化してみるとよいでしょう。会社や周囲の理解を得るうえでも、大切なことです。 また、学びのみならず交流も大切にすることで、学びのコミュニティとしての意義が生まれます。勉強会を淡々と続けるだけでなく、たまにイベントを設けてみる。ゲストを招いてみたり、合宿を行ったりと、揺さぶりをかけるのです。 ――学びだけではなく、私的な交流やイベントを取り入れるのはなぜでしょうか。 参加者同士で心理的な絆を築き、コミュニティが参加者の居場所となるのは、学びのうえでも効果が高いからです。私のゼミでも、はじめから分厚い本を読みこむといったことはしません。最初は交流でメンバー同士の接点を増やし、相互理解が深まったところで少し高いハードル、たとえばイベントの企画や運営を任せます。そのハードルを乗り越えると、ゼミの心理的安全性がすごく高まるのです。 すると健全な批判も出せるようになり、議論や学びの質自体が向上します。批判は議論の場だけで、終わったら仲よく一緒にご飯を食べに行けるような関係が望ましいですね。 特に学びのコミュニティの場合、仕事と切り離された場ですから、職場だと躊躇(ちゅうちょ)してしまうけれど、ここなら思いきって言えるということも出てくるでしょう。その本音が、組織課題の核心を突いていることも少なくないはずです。 共に学ぶ仲間が共感したり、先輩方が少し高いレイヤーから意見を述べたりできれば、課題の半分は解決することもあります。ただこのやり取りは、学びの場だけでは難しい。私的な交流も交えて信頼を築くことで、生まれるのだと思います。 私が参加しているコミュニティでは、集まった時のランチはカレーを食べに行くことにしています。なんだか議論が盛り上がらなかった日でも、カレーがおいしかったらまた続けられるからです。 最後に、活動を持続させるうえで意外と大事なのが、次の予定を決めることです。解散した後に日程を調整しようとしても、ずるずると決まらず自然消滅、ということになりかねません。どんなに盛り上がっていなくてもいいので、集まったときに次の開催日を決めることが大切です。 ――学びのコミュニティの活動は、どのように評価するとよいのでしょうか。 ポイントは二つあります。一つは、意義を見いだす際に客観的評価だけで判断しないことです。企業での活動というと、KPIなどの指標を設けたくなる人もいるかもしれませんが、コミュニティの評価とは相性がよくありません。主体的に学びたい従業員が集まり、人脈を広く形成して相互理解を深めることや、何よりこの場が楽しいと積極的に取り組むことによる間接的な効果に、もっと目を向ける必要があるでしょう。 たとえば他部署の人とのつながりは、会社や自分の置かれた立場を俯瞰(ふかん)するきっかけになります。自身のキャリアパスを広く捉えられるようになり、ジョブポスティングの活性化や他部署への異動も積極的になるかもしれない。部署横断のプロジェクトが立ち上がったときなどは、円滑な関係構築につながる可能性もあるでしょう。学び合う風土の醸成は、組織の成長に必ずポジティブな作用をもたらすはずです。 もう一つは、当初は意図していなかった効果についても評価することです。たとえば介護医療施設で認知症の改善を図るコミュニティをつくったが、認知症への効果に加え、スタッフ間のコミュニケーションが深まり利用者の理解が進んだ、という例があります。想定外の領域に効果が期待できるとわかったら、コミュニティのテーマ自体を変更すればよいのです。 活動を続けていれば、個々の学びのレベルが上がり、参加者の興味や関心も変わってきます。実践共同体が進化し続ける、場合によっては一度解散して再構成を図る、というのは自然なことで否定する必要はありません。