日本の薬は大丈夫か?(3)ジェネリック不足は世界の問題
ジェネリック不足は日本だけの問題ではありません。新型コロナ流行前から世界中で顕在化し、現在も解消のめどは立っていません。 生活苦で広がる患者の服薬の間引き、治療の中断…「モーニングサージ」に気をつけろ まず身近なところでは、「アモキシシリン」や「セファレキシン」といった、代表的な抗生物質が不足しています。風邪、気管支炎、中耳炎、膀胱炎、皮膚炎など、細菌性の病気に処方される薬です。日本でも昨年の秋ごろから不足し始め、アモキシシリンについては、現在すべてのメーカーが限定出荷になっています。またセファレキシンは供給停止や販売中止が相次ぎ、いまは1社のみ限定出荷している状況です。これから冬を迎えて、不足感がさらに高まるのは必至です。抗生物質は需要の増加に対して原薬の供給が追いつかないことが、不足の原因になっています。しかし供給元が特定のメーカーに集中していると、被害はより大きくなることがあります。 2018年、アメリカで高血圧薬の「バルサルタン」(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が市場から消えました。中国の原薬メーカーの製品に、発がん物質が混入していたためです。ただちに製品の回収と出荷停止の措置が取られましたが、ジェネリックメーカーの多くが、原薬をこの1社から購入していたため、影響は甚大でした。患者には代替品が処方されましたが、心不全、心臓発作、脳卒中などが増加したと報告されています。このときは日本でも、同じ中国メーカーの原薬を使っていた製品が、回収・製造停止になりました。しかし別の原薬メーカーから買っていた会社も数社あったおかげで、大きな問題にならずに済んだのでした。 もっと深刻だったのは、アメリカで2022年から発生した抗がん剤不足です。「シスプラチン」「カルボプラチン」という代表的な抗がん剤が、1年以上にわたって供給不足に陥ったのです。原薬を供給していたインドの工場が、品質問題で急に閉鎖されてしまったため、一時はアメリカ国内の供給が半減する事態となり、抗がん剤治療を受けられない患者が続出しました。 このときも日本は原薬の供給元を分散していたため、大きな問題になりませんでした。しかし供給元が海外の特定の1社に集中しているジェネリックも少なからずあるといわれています。いつ同じような事態が起こってもおかしくありません。 (永田宏/長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授)