AI本格時代への展望 　基調講演の後半では、ITインフラの継続的な進化に取り組むトヨタシステムズが事例を紹介するとともに、大塚氏とNTTデータグループおよびKDDIのAI責任者が対談した。 　トヨタシステムズは、トヨタ自動車グループのITを支えるとともに、グループのITの底上げを担う。講演した取締役の加納尚氏は、2021年に代表取締役会長の豊田章男氏（当時は代表取締役社長）がDXを掲げて以降、デジタル環境の整備（スマートフォン活用の推進など）やITリテラシー教育（グループ4万人が受講など）、データのオープン化（「データ図書館」「情報ポスト」開設など）、市民開発（職場のアプリ開発者約2万人など）を実現したと切り出した。 　この間に多くの成果と実績を生みだし、グループのDXマインドも醸成されたが、業務現場中心のDXに限界を感じたという。そこで次のステージとして、社会のニーズをトヨタ自動車グループ内に取り込み、グループとして価値を創造し、社会に還元していく「コーポレート一気通貫DX」に乗り出す。データの流通に重きを置き、血流のごとくデータがグループ内に流れるデータドリブンな環境作りを進めた。 　ITインフラでは、システムごとのサイロ化状態を解消すべく2016年に仮想化共通基盤「KITORA」を構築し、費用の低減、品質の向上、ガバナンスの確保などを図った。次に、コーポレート一気通貫DXを支えるデータ流通基盤を2021年にハブリッドクラウドで構築した。これらをベースとして、2024年10月に次世代のハイブリッドクラウド／データ流通統合基盤の構築を開始した。 　この次世代基盤では、コーポレート一気通貫DXの推進、AIなどの先進技術への対応、技術負債化の回避を図り、データの流通、変革に対応し続ける柔軟性、クラウドメリットの享受を実現しつつ、トヨタならではの堅固さ、信頼、安定を兼ね備えたものとしていくという。 　この基盤のさらなる方向性として、巨大でモノリシック（一枚岩）なシステムからコンテナーなどにより機能の柔軟な切り出しや容易な連携を可能とすることや、計画停止ゼロで連続稼働でき柔軟な拡張性を備えるITインフラの実現、マルチOS／ハイパーバイザーなどによる環境ロックインの回避などを目指すとし、加納氏はトヨタの代名詞でもある「カイゼン」を続け、進化し続ける基盤を実現していくと説明した。 　講演の最後は、デルの大塚氏がモデレーターとなり、NTTデータグループ グローバルイノベーション本部 Generative AI推進室長の本橋賢二氏とKDDI 経営戦略本部 Data ＆ AIセンター長の木村塁氏がAI活用をテーマに対談した。 　NTTデータグループは、オープン／プライベート（組織専有）のハイブリッドアプローチでAI活用を推進し、KDDIでは社内、コンシューマー向け事業、法人向け事業の多様な領域で大規模計算基盤の提供やLLM開発、AIガバナンス、ソリューション提供まで行っているという。 　大塚氏が顧客のAIのユースケースについて尋ねると、本橋氏は「代表的なものはパーソナライズ、チャットボット、技術伝承の3つになる」とコメント。パーソナライズでは、化粧品メーカーと共同で顧客にAIで最適な製品の利用や美容のアドバイスを提供しており、技術伝承では製造企業と熟練技術者の暗黙知をAIで文書化する取り組みを進めているという。特に企業や組織の情報資産は機密性が高く、AIの学習ではNTTが開発するLLMの「tsuzumi」を活用するケースがあると紹介した。 　木村氏は、顧客対応の領域になると述べ、「周囲と話しても、まずはコスト削減と言われる」と明かした。コンタクトセンターなどでの顧客対応を電話からAIチャットボットにすることで、オペレーターなどの人的リソースを適正でき、電話がつながらないといった状況の解消や24時間対応の実現など、AIで顧客体験も向上できると述べる。 　さらに、大塚氏が生成AIをより高度に活用していくためのポイントを問うと、木村氏はデータを適切に活用できる環境整備が大事だと指摘した。「AIがどんなに進化しても、その元になるデータ自体は変わらない。データをきちんと管理、整備することが必要になる。その上でAIの変化にアジャイルに対応していくことも必要だ」（木村氏） 　本橋氏は、「イノベーションを起すためのイノベーションに取り組める環境作りが必要だ」と説いた。国内は少子高齢化、労働人口の減少が続いているため、業務対応などにはユースケースに即した特化型のAI、複数の業務にまたがるならそれに対応できるAIの活用などAIに置き換えられるものはAI化していくことで、「イノベーションに携わる人材を積極的に増やしていくことが大切だ」（同氏）という。